【読書】『小説 イタリア・ルネサンス3―ローマ―』
ルネサンス期ののイタリアが舞台。主人公マルコ・ダンドロは、ヴェネツィア共和国の元老院議員だったのですが、理由あって、公職追放3年。
この機会に・・・・・ということで、フィレンツェを見終わって、次はローマ。
国際都市ローマ。
ヴェネツィアが外国人にとって魅力があるのは、
- 経済上の利益
- 宗教が違えど、民族が違えど、差別も迫害もしない公正な社会制度
- 専制君主の気まぐれで振り回されることがない、共和制であること
これがコンスタンティノーブルだと、経済上の利益もあるし、金さえ払えば信仰も自由。なんだけど、スルタンの気まぐれで振り回される。
同じキリスト教国家でも、「カトリック VS プロテスタン」で血みどろの抗争を繰り広げていたのだから、それ以前の問題。
ローマでは、法王からして外国人。古代ローマ帝国も途中から属州出身者、つまり、国のトップが外国人。
国際都市というのは、そこに住む外国人の数によるのではないと、マルコはつくづく思う。ということで、すっかりローマに居心地よくなってしまったマルコは、古代遺跡探索を堪能し、もう公職から引退して、古代文明を楽しむ余生を送ってしまおうかしら、とまで思ってしまうのでした。
プレヴェザの海戦
しかし、時代は許さない。
トルコ帝国の攻勢におされたキリスト教国家は、連合艦隊を組んで対決することに。
連合艦隊の総司令官になったのは、スペイン王の推す、ジェノバ人傭兵隊長、アンドレア・ドーリア。
彼はスペイン王から密命を受けていた
- ヴェネツィアの利益になる戦いはしてはならない(ようするに、東地中海では戦うな、ということ)
- 大勝が確実でなければ、先端は開くな
かくして、プレヴェザでトルコ艦隊と対したキリスト教国家連合艦隊は、一戦も交えることなく逃走することでの「敗退」という何とも情けない結果に。
この敗戦は、ドーリア自身もほとほと嫌だったようだ。
内容がどうであれ、敗戦は敗戦。トルコ側は士気が上がるし、キリスト教側は意気消沈。
マルコも、引退と言っていられなくなってしまうのでした。
当時の法王庁の問題
当時の法王庁の問題を整理してみましょう。
- 宗教改革であろうと、反動宗教改革であろうと、ヨーロッパがローマから離反しようとしていること
- スペインの攻撃に対して、守りに入るしかないイタリアの現状
- フランス王とスペイン王のヨーロッパの覇権争い
- イスラム勢、トルコの攻勢
宗教改革にまつわる闘争を、「カトリック VS プロテスタン」と考えると間違う。
たとえば、イギリス王ヘンリー八世の、愛人と結婚したくなったから離婚させてくれという「わがまま」から始まった、イギリス宗教改革の過程。
法王が「けしからん」と言って破門して、泣きを請うて許してもらったのが「それまで」
しかし、「これから」は、ヘンリー八世は「破門」されても気にしない。
もう「宗教」が問題なのではなく、ローマからイギリスが自立・独立するという「政治」問題に変化した。
「宗教」を使った法王庁の求心力が弱くなってしまっているのである。
スペインの攻勢は、「ローマ掠奪」が最大の事件。スペインの「言うことを聞かない」のは法王庁とヴェネツィアのみ。
フランス王は役に立たないし、まさかトルコと手を組むわけにはいかない。
ということで、法王庁の求心力は低下してしまったのです。
それを踏まえた、ヴェネツィアの問題
- ヴェネツィア一国ではトルコに対抗できなくなってしまったこと
- スペインの領土拡大に抵抗していること
- フランス王が役に立たないこと
- ローマ法王の求心力が低下していること
今風に言えば、「政教分離」の原則が守られているのがヴェネツィアのいいところ。
だったんだけど、対トルコ戦線を組むにはキリスト教を利用しなければならなくなってしまったのが皮肉なところ。
なのに、法王庁の求心力は低下している。スペインに泣きついたら、属国にはならなくても、自立独立が守られなくなる。
キリスト教国家でスペインに対抗できるのはフランス王しかいないのだが、役に立たない。
ということで、経済は経済、政治は政治、宗教は宗教、と個々別々に考えるわけにもいかず、かといってまとめて考えるには複雑すぎる状況に。
バランス感覚・平衡感覚というのは易しだけど、実行するのは難しい。
人材がどれほどあっても足りない状況。
マルコも、公職追放からの引退後の余生、と言っていられなくなってしまうのです。