【読書】『名画で読み解く イギリス王家 12の物語』【ヘンリー八世というジャイアニズム】
ヘンリー八世
テューダー朝を立ち上げたヘンリー七世は8人の子をなし、男児2人を得る。
長男アーサーは15歳で、スペインのキャサリン・オブ・アラゴンと結婚するが、病弱だったため挙式の半年後に病死。
普通ならキャサリンはスペインに帰るところだが、持参金返還を嫌ったヘンリー七世が、次男で新王太子になったヘンリー八世と結婚させる。
そんな事情で結婚したのだが、ヘンリー八世とキャサリンは幸せな結婚生活を送っていた。
しかし、それが暗転する。
ひとつめの理由は、二人の間に生まれて生き残ったのは娘のメアリ1人であったこと。男の子であったら違った展開を迎えていたかもしれない。
ふたつめの理由は、フランスから来たアン・ブーリンだ。ヘンリー八世は彼女に惚れてしまったのだ。
ヘンリー八世
David MarkによるPixabayからの画像
アン・プーリンと結婚したかった
フランス宮廷仕込みの魅惑的な女官だ。西洋史において悪女扱いされることの多いアンだが、周りで多くの女性(自分の姉妹も含む)が八世の遊び相手にされ捨てられているのを見て、王妃にしてくれるのでなければ嫌だと言い張ったのも無理はない。
「国王の寵愛を得たからラッキー」
などと言ってはいられない。
アンが保身に走るのも無理はない。
カトリックは離婚を認めない。そこで八世が持ち出したのは、兄の妻だった女性との結婚はもともと無効だという、身勝手きわまる主張である。ヴァチカンは許可しなかった。いや、許可できなかった。二十年前と情勢が変わっていたからだ。
ハプスブルク家の結婚政策が当たり、ヨーロッパ最強の国家となる。当時のハプスブルク家のカール五世はキャサリンの甥にあたる。いくら教皇庁と言えども、逆らえるわけがない。
それがなくても許可はすることはできない。いまさらそんなことを言いだすの論理的な矛盾だ。はじめから結婚しなければよかったのだから。
しかし、なぜ、アンも「王妃」の座を要求したのであろう?
初めから無理なものを言ってしまえば、ヘンリー八世も諦めるだろう、と考えたのであれば、見くびりすぎだ。
ヘンリー八世ならどんな手を使ってでも離婚する―――――その方法を使ってアンも離婚されたら?
結局、アンも「女の子を産んだから」という理由で、離婚され、あまつさえ処刑させてしまうことになる。
考えてみれば、フランス宮廷には「公式愛妾」なる非公式な公認制度があり、「○○伯爵夫人」「○○公爵夫人」という名が何人も出てくる。アンも「王妃」を条件に持ち出すのではなく、「○○夫人」で満足していれば、処刑は免れたかもしれない。寵を失えば、領地に引っ込むだけだ。
しかし、そうなるとアンの子ども、エリザベスが即位する可能性がなくなってしまうのだから、子どもの将来を考えれば、「王妃」の座を要求したのは正解だったかもしれない。
とかとかとか・・・・・考えていると、結局、ヘンリー八世の身勝手は、多くの女性を不幸に陥れただけ。ちなみに6人と結婚する。
女性の立場に立てば、ロクでもない王様だ。
上に書いていることも、ロクでもないことを書いているけれど。
つくづく、現代社会に生まれてよかった。多くの問題はあれど、人権は保障されている。少なくとも、ヘンリー八世の時代のイギリスよりは。
離婚の副産物
離婚したい、というよりアンと再婚したいがためだけに、たった一人で推し進めた宗教改革。
なんとも身勝手な話だが、これには思わぬ副産物がついてきた。
- もちろん、ローマ教会からの独立
- 自分に従わない国内の修道院や教会を叩き潰す
- 土地も財産も没収
- 没収した財産で王室は潤う
- 潤った財産で、他の有力貴族の力を削ぐ
これにより、絶対王政が確立する。
他のヨーロッパ諸国が、と言ってもヘンリー八世の死後、キャサリンとの間に生まれた娘メアリがプロテスタントを排撃するからイギリスもなのだが、カトリックとプロテスタントの間で血みどろの抗争を繰り広げている。
有力貴族の反乱に手を焼くフランス王。
教皇が介入するため、権力の確立ができない神聖ローマ皇帝。
イタリアに至っては群雄割拠。統一国家が生まれたのは20世紀のことだ。
気に入らないやつは叩き潰す。
欲しいものは手に入れる。
それがヘンリー八世という男なのだが、そのジャイアニズムがイギリス王室の強化につながるのだから、何がどうなるのかしれたものではない。
いや、私益と公益が一致したのかもしれない。
自分自身の欲望のままに突っ走ったら、イギリスの繁栄につながった。意図的だったら大した手腕だ。偶然だったら運が良い。
ジャイアニズム
ちなみに、「ジャイアニズム」をググってみました。
その結果、「Wikipedia」に載っているのにも驚いたが、こんなことも載っていた。
だが、2011年3月25日に放送されたアニメ版のオリジナルストーリー「のび太のハチャメチャ入学式」では、小学校に入学したのび太がトラックの荷台に落としてしまったランドセルを必死にジャイアンが追いかけ、その理由としてこの台詞を(だからのび太のものであっても、俺のものと同じように必死になるんだという意味で)語るというエピソードが展開された。引用元:Wikipedia映画で見るジャイアンはとてもいい奴なのだ。
ヘンリー八世のジャイアニズムも、イギリスという国に対しては、いい方向に向かっていたのだ。
女性問題ではロクでもない王様だったけど。