【読書】『農業新時代』
日本の農業の、生産・物流・流通・消費のルートは、安くて、品質が良くて、安定供給できるシステムの完成形なのでしょう。
では、なぜ農家さんに元気がないのか?
日本の農業システムが時代に合わせて成長してきたのも事実。
しかし、それが今の時代に合わなくなってきたのも事実。
それを突破して、解決しようとして頑張っている方がいる。
農業やるかどうかは別として、今のシステムに行き詰まり感があるのなら、こんなことして突破してみよう、というヒントがあります。
- 「情報の非対称」を埋めよう
既存のルートから外れるとどうしていいかわからない。
ITでもSNSでも情報を集めよう。 - 「個性」と「長所」の組み合わせが最強
みんなと同じことをやってちゃだめだ。
いい仕事をすれば、ぼったくる儲けるチャンスはある - 自然と社会が調和する社会的農業
牛の腸内環境を整えれば、堆肥が臭くなくなる。
益虫で害虫を防げば農薬を使わなくてもよくなる。
現在のシステム
農業就業人口は2000年の389万1000人から18年には175万3000人と半減。このうち65歳以上の高齢者が120万人で、平均年齢も2000年の 61・1歳から、18年には 66・8歳に上昇している。
生産者の所得も、どんどん低くなっている。 95年に891万7000円だった農家総所得(農業収入と農業外収入を足したもの)は、17年に526万円になっている。これはひとり当たりの金額ではなく、「一経営体」の所得である。こう書くと壊滅的な状況。
現在の農作物流通システムは、
生産者 → 農協 → 仲卸 → 小売り → 消費者
という流れになっている。
これは戦後から数十年も変わっていない。
問屋を通せば通すほど、コストがかかる。時間もかかるので鮮度も悪くなる。
天候がよくて豊作になると、余っているからという理由で高品質でも買いたたかれて、廃棄される。
逆に、不作だと品質が悪くても高値で売れる。
「安かろう悪かろう」が商売でもお買い物でも通用するはずなんだけど、品質がいいと安くて品質が悪いと高いって、おかしいよな?
人口増加、大量生産、大量消費時代に構築され、最適化されてきたこの仕組みは、しかし、最も核となるべき生産者の視点を欠いていた。戦後の社会変化に必死になって対応したシステムといえるけど、生産者の視点を欠いていれば、いずれ供給不足になることが予想できる。
この問題を解決すべく立ち上がっている方がいます。
新しい農業のインフラを作る:『SEND
』
こう書いてしまうとイヤなことばっかりだったんだけど、『SEND』は立ち上がったのです。5500人の生産者と7500軒のレストランのマッチングを手掛けるプラットフォーム「SEND」を展開するベンチャー、プラネット・テーブルの創業者、菊池紳は「既存の流通システムが生産者のモチベーションを下げてきた」と指摘する。その理由は以下だ。すべての項目の冒頭に「質の高い野菜を作っても」という言葉を入れるとよりわかりやすい。
・自分が作った作物を誰が食べているのか、顔が見えない
・農協などに卸すとほかの生産者の作物とまとめて出荷される
・売り場の都合に合わせて、未熟な状態で出荷しなくてはならない
・「中抜き」によって最終的に生産者の手取りは販売価格の30%程度しかない
・作物の味や香りではなく、市場が求める色、形、大きさが重視され、基準にそぐわない作物は廃棄せざるを得ない
・豊作になると、市場価格を守るために「生産調整」という名目で大量廃棄される
情報の非対称性を埋める
『キリンビール 高知支店の奇跡』を読んでいて”本社と現場で持っている情報量が違う。情報量さえ同じならば、同じ判断をくだせるのでは?”との指摘。課題は、情報の非対称性だった。食品会社が大量のレタスを求めている。農家も対応できる生産能力がある。それなのに、既存の流通から外れると、誰にオーダーをすればいいのかわからない。お互いに存在すら知らないのだ。
これが農業にも当てはまる。
生産者と消費者の情報の非対称性を埋める。
考えてみれば、これだけITとかSNSとかが発展しているのだから、それを使わない手はないのです。
参照:SEND
みんなと同じことをやってちゃだめだ:『梶谷農園』
ここからは、売り言葉に買い言葉。
「おいお前、何を言ってんだ。ただ安くて、安定してきれいなものを出せばいいんだよ」
「それ以上は求めてないんですか? 香りは?」
「香り? いらねえよそんなもん」
「え、ハーブなのに?」
「だから、安さ、安定、きれい、その3つをちゃんとやればいいんだよ」
「これはやばいなと。この分なら、値段も叩いてくるだろうと思いました」
そりゃ、モチベーション落ちるわ。
こんなことが日常的にやり取りされているのなら、品質のいい野菜なんて夢物語になっちゃうんだろうな。。。。。
「個性」と「長所」の組み合わせ
『SEND』の指摘している、情報の非対称性。料理人はみな目新しい食材を求めていて、自らアンテナを張って探している。梶谷農園のハーブが気に入った料理人から「こういうハーブはないの?」「こういうハーブは作れる?」と聞かれると、梶谷は国内外から種を仕入れて育てた。英語、ラテン語に通じた梶谷は世界中の文献から育て方を調べることができる。それが梶谷の大きな強みになった。
料理人がハーブを探すときにも発生している。
「こういうの欲しいんだけど、だれが作ってくれるのかが分からない」
それを作れてしまうのは梶谷さんの強みになる。
なぜ、ここまで圧倒的な支持を得ることができたのか。答えは、梶谷が天才と認めるアイゲンゼンファームのシェフ、マイケルのアドバイス「Be you」にある。「ほかと同じことをするな。〝自分〟であれ」という言葉を実践するように、梶谷は語学力と専門知識を活かして「ハーブハンター」になった。「個性」と「長所」の掛け算がいい仕事につながる、という好例です。
儲けるチャンスはある
ぜひ、海外のお金持ちにゼロひとつつけて売ってもらいたい。「日本人は気づいてないけど、日本の農業のポテンシャルはすごいんです。日本の伝統野菜は日本で売ってもそんなに価値が変わらないけど、海外ならゼロがひとつ増えても売れますよ。有機野菜も同じ。海外のお金持ちって日本人と金銭感覚が違うから、日本の伝統野菜の有機栽培とか言ったら、もうなんぼでも出すよって感じですね」
日本人には良心価格でお願いします!
既存の流通ルートはずしちゃえ、と思ったりするのは、僕だけだろうか。
「ほとんどの人が、同じ土俵で競い合ってるじゃないですか。例えば、トマトの糖度が高い、低いっていうけど、腰抜かすほど美味いトマトって食べたことありますか? 日本は島国で珍しい植物がいっぱいあるし、日本の農家はまじめで世界で一番ぐらいの技術を持っています。だから、世界が欲しがるものを作れば売れるんですよ。でも、みんなよくある野菜を作って微妙な差を競ってる。それは本当にもったいないと思います」そうだったのか。。。。。
生産者と消費者の情報の非対称性ってビジネスチャンス、儲けるチャンスを逃してしまうことになるのです。
参照:梶谷農園オフィシャルサイト
スーパー堆肥メーカー:「SPITIT」
1960年代、農業の世界で「緑の革命」が起きた。これは急激な人口増加に対して、高収量の品種の種を開発し、化学肥料と農薬で大量生産するという動きを指す。この革命によって、1960年代前半から年で穀物の1ヘクタール当たりの収量が倍以上に伸びた。
緑の革命から半世紀が経ったいま、農業界に新しい変化の波が起きている。テクノロジーによって、人間の労働力や判断に依存していた従来型の農業をスマート化しようという流れだ。わかりやすい事例をひとつ挙げれば、これまで人間が重装備して散布していた農薬を、ドローンによる散布に切り替えること。これによって作業時間の短縮、人的コストの削減が実現する。同じ目的で、耕作機器や環境制御も自動化が進んでいる。「緑の革命」が農業生産物を増大させてはいるのだが。
しかし、50年以上経ち、社会も変化しているのだから、農業も変化・進化していないというのもおかしい。
③最新の植物病理学の研究では、農作物の主要な病気の原因・メカニズムが解明されており、病虫害の発生予察や診断による予防的措置と、天敵などの生物的防除や粘着板・網なども利用した物理的防除を合理的に組み合わせた総合的病害虫管理(IPM)の研究が進んでいる。健康志向、安全志向に向かっているのだから、「無農薬」「有機栽培」で
臭くない堆肥
そりゃそうだ。ただ、農業時代から気になっていたのが、堆肥の「悪臭」。不快な匂いがする堆肥とその匂いがしない堆肥、どちらを使いたいかと農家に聞けば、誰もが後者を選ぶに違いない。藤原は堆肥の匂いをどうにかできないものかと考えた。もともと農家をしていたからこその発想だ。
「あ、この辺にありそうだな」
と犬でもない僕でも当てることのできるあの匂い。
健康とか安全とか環境とか考える前に、自分のストレスを解消することを選んだとして、責めることは僕にはできない。
藤原は糞の匂いを和らげるために、微生物に着目した。独学で土壌学や微生物について勉強し、自ら土着菌を培養して、乳酸菌を中心とした有用菌を入れた飼料をつくった。乳酸菌は抗菌作用、有害菌の増殖を抑える働きを持っており、人間も乳酸菌飲料を飲んで腸内環境を整える。それを牛に応用したのだ。この狙いが当たり、牛に特製のエサを食べさせると独特の匂いが弱まった。さらに、堆肥に含まれる有用菌の密度も高いことがわかった。それは土壌を豊かにして、いい野菜をつくることにつながる。僕も、乳酸菌飲んで腸内環境整えちゃおうかしら。
僕の腸内環境がどうなろうが世間に影響はないんだけど、牛の腸内環境を整えれば、堆肥の匂いが弱まるだけでなく、土壌を豊かにできる、ひいてはいい野菜を作ることにつながるのです。
ダニをもってダニを制す
どちらも有機栽培をしている農家で、農薬に頼らない彼らにとって、一番大きな悩みの種は病虫害だった。なかでも厄介なのが、あらゆる植物の葉に寄生して吸汁し、植物を弱らせる害虫「ハダニ」だ。ハダニは繁殖力が強いので、農薬を使う場合でも栽培期間中に何度も薬剤散布を行う必要がある。有機栽培、無農薬栽培にこだわる農家にとっては天敵だ。
「うちの堆肥は有用菌の密度が高いので、益虫となるカブリダニや線虫などの土壌生物が繁殖するんですよ。その益虫が、ハダニだけじゃなくて、アザミウマ、コナジラミといった農家にとって厄介な害虫や、病気のもとになる菌をどんどん食べてくれるんです。うちの堆肥を撒くと目に見えるほど大きなダニがたくさん歩いていますけど、そいつらはみんな良いダニなんです」歴史上よくある、敵国の内紛をそそのかして弱体化させるような策謀で、益虫で害虫を撃退する作戦。
臭くない堆肥を使う。
そして、害虫を益虫で防ぐ。そうすれば化学肥料や農薬を使わない農業ができる。
自然と社会が調和して、人も家畜も健康になる。これが社会的農業だと思っています。健康志向、安全志向、それに加えて環境問題も解決できる「社会的農業」
これからの時代にピッタリです。
参照:株式会社スピリット
まとめ
- 「情報の非対称」を埋めよう
既存のルートから外れるとどうしていいかわからない。
ITでもSNSでも情報を集めよう。 - 「個性」と「長所」の組み合わせが最強
みんなと同じことをやってちゃだめだ。
いい仕事をすれば、ぼったくる儲けるチャンスはある - 自然と社会が調和する社会的農業
牛の腸内環境を整えれば、堆肥が臭くなくなる。
益虫で害虫を防げば農薬を使わなくてもよくなる。