【読書】『日本の少子化政策はなぜ失敗したのか?』
山田昌弘さんは、この本で、
①日本の少子化政策が的外れだったこと
②日本社会の制度・意識・経済状況の変化が少子化をもたらしていること
を書いている。
だたし、
「日本政府は何やってるんだ!」
という怒りから書いているのではない。
ただ、現実に「結婚したい、子どもを産み育てたい」という若者は圧倒的に多い。彼らの希望をかなえることが、同時に、持続可能な社会を作るものであるなら、それを政府や社会が後押しすることが必要だと私は考える。ここから読み取れるのは、歯がゆさだ。
親の愛情と、世間体意識、そして、リスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたらされている
②政府の政策が的外れだった理由
- 子育て支援しても意味がない
- 欧米のマネをしてしまった
③脱却への道
自分たちなりの幸せを追求すること
少子化の原因
これが本書の結論。つまり、親の愛情と、世間体意識、そして、リスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたらされていると考えられる。
その状況に対して、欧米型の少子化対策、つまり、女性が働きに出られればよい、とにかく子どもが最低限の生活を送れればよい、という形での支援は「無効」なのである。
じつは、日本の相対的貧困率(平均所得の2分の1以下の所得の人口が、その国や地域の全人口に占める割合)は、2015年で 16・0%である(OECD平均は 1・5%)。OECD34カ国の中では6番目に高く、G7の中ではアメリカに続き2番目に高くなっている。これは、
日本の1人あたりGDPは、OECD諸国の中でも低い方なので、貧困状態にある人の割合は、先進国の中で相当高い。
「日本人の現実は貧困と隣り合わせ」
なのだというデータだ。
いつ貧困状態になるか分からない―――――
そんな状況で「出産」という選択ができるだろうか?
私は、1996年に出版した『結婚の社会学』(丸善ライブラリー)の中で、「収入の低い男性は結婚相手として選ばれにくい」という現実を指摘している(学術論文や学会、政府系の研究会の中では、それより早く発表している。また、論壇誌『諸君』の中でも展開していた)。確かに、「あなたは、経済力がないから、結婚できませんよ」と言うのも、言われても、気分のいいものではない。
当時、これほど評判の悪かった指摘はなかった。
しかし、「あなたは、魅力がないから結婚できませんよ」と言われるよりは、マシだと思うが。
欧米と比較して、日本ではシングルマザーは少ない。
よく考えたら「でき婚」ですら、今では市民権を得ているものの、「順番が逆でしょ」と言われたものだ。
日本人の意識として、結婚と出産はセットに考えている。
だから、子どもを増やそうと思ったら、結婚を奨励するしかない。
しかし、その結婚が「経済力」で決まるのだったら、景気を回復させるしかない。
困るのは日本人が持ってしまっている「中流」意識なのだ。
そこから転落すると「世間体」が悪くなる。
自分自身のことで我慢が出来ても、子どものことになれば―――――
「リスク回避意識」を持ってしまうのも当然だ。
政府の政策が的外れだった理由
子育て支援しても意味がない
上述のように、経済力がないから結婚しない、子どもを産まないのである。
子育て支援しても出生数が増えはしない。
「子育て支援するな」という意味ではない。
「子育て支援は必要だが、それが少子化対策に対する効果が限定されていた」ということだ。
欧米のマネをしてしまった
一口に、「欧米」といっても、
少子化が起きなかった国:イギリス・アメリカ・オーストラリア
少子化を政策で回復した国:フランス・スウェーデン・オランダ
少子化を移民でしのいだ国:ドイツ・イタリア・スペイン・カナダ
とパターンが違うのである。
少子化を政策で回復した国もあるけれど、それぞれの国で背景が違う。
その背景を無視して、政策だけマネをしても効果は上がらない。
脱却への道:自分たちなりの幸せを追求すること
と嘆いていても、少子化が止まるわけではない。
何かをヒントにして、きっかけにならないものだろうか?
私は、ある地方自治体の結婚サービスで結婚したカップルのインタビュー調査を行なった(「未婚化社会における『結婚支援活動』の実証研究」)。そんなカップル成立するの?
その時、いわゆる「オタク」同士の結婚が多いので驚いたことがある。それも、同じ趣味ではなく、たとえば男性が「アイドルファン」、女性が「ディズニーファン」といった組み合わせである。
彼らは、初対面で、お互いの趣味の話を何時間もして盛り上がったということである。地方なので、男性でも契約社員や介護などの職に就いている人が多かったが、2人の収入を合わせれば、生活費が安いので、普通に暮らせると話していた。日本の少子化の原因が
自分で「これがあれば幸せ」というものを持ち、お互いにそれを理解し合っていれば、人の目を気にせずに楽しい結婚生活が送れる。子どもをどちらの趣味に染めるかという楽しい競争が後で起こりそうであるが……
- 親の愛情
- 世間体意識
- リスク回避意識
であるなら、
生活費の安い地方で生活すれば、普通に暮らせる
⇒ リスクが小さいのである。
そもそも、
「世間体を、どこまで気にすればいいのか?」
「中流とは、どこからどこまでか?」
という疑問がある。
「こういう方法もあるよ」
ということを提案する、提示する、紹介する。
その方がよほど建設的だし、なによりも自分自身が幸せになれる。
過疎も行き着くところまでいくと、地域の人々も、世間体など言っていられない、ひとり親でも大歓迎ということかもしれない。世間体を追求するのをやめて、自分たちなりの幸せを追求する方が、よほど建設的で、つまり充実した人生になるだろう。
このように世間体を気にせず、家族を形成して、自分たちなりの幸せを追求しようとする若者も現れてきている。こうした若者たちが生きやすくなるよう、国や自治体が、彼らに対する生活の支援策を行なうことも、必要と考えている。
まとめ
①少子化の原因
親の愛情と、世間体意識、そして、リスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたらされている
②政府の政策が的外れだった理由
- 子育て支援しても意味がない
- 欧米のマネをしてしまった
③脱却への道
自分たちなりの幸せを追求すること