【読書】『帳簿の世界史』【お小遣い帳ぐらいつけましょう】
日商簿記検定2級は持っていますが、1級は持っていません。
そんなレベルな僕ですが、簿記や会計の勉強をしておいてよかったな、と痛感しています。
そんな会計が、簿記が、いやそもそも帳簿が、歴史上どう扱われていたのか?
⇒ むごい扱われ方をしています。
借方貸方、減価償却、原価計算などなどといった、会計学の言葉は出てきても、難しい理論を知らなくても本書を読むことはできます。
「会計や簿記の勉強をしろ」とまでは言いませんが、「お小遣い帳ぐらいつけましょう」
・会計改革は抵抗に遭う。
会計が文化の中に組み込まれた社会は繁栄する
金で幸せが買えるとは思いませんが、不幸を回避できることは確か。
財政が良好な社会が繁栄するだろうし、財政難なら破綻する。
そんなことは当たり前。
重要なのは、
「会計の文化がある」
ということなのです。
スペイン:そんなに借金あったのか!
スペインの絶対王政を思い出すと
「太陽の沈まぬ国」
「無敵艦隊」
を思い出して、なんかかっこよさそうだ
⇒ かっこだけ。
広大な領土を持ち、規模が大きくなりすぎて、収入も支出も、資産も負債も把握できなくなっていたのです。
紆余曲折の末に、一五七四年四月一一日、オヴァンドは国家の巨大なバランスシートを作成してのけた。(中略)そして、その数字を見て誰もが愕然とした。国王の推定収入は、五六四万二三〇四ダカット。これに対して債務総額は七三九〇万八一七一ダカットである。年間の基本支出はおよそ三〇〇万ダカットであるが、これも含めて支出をいっさいしなくても、債務を完済するのに一五年はかかる勘定だ。債務を完済するのに15年?
スペインは、太陽は沈まなかったらしいが、財政は沈んでいた。
どうしてそんなことになったのか?
⇒ 帳簿がないからだ。
スペインに限らないことなんだけど、どうやらヨーロッパでは「帳簿」どころか「お小遣い帳」のレベルですら記録をする人が極めて少数だったのです。
フランス:ルイ一四世とコルベール
フランスを統一するために歴代フランス王がどれだけ苦労したことか。
「文化による統一」
なんてうまい方法で成功したのは、ルイ一四世だ。
参照:『ブルボン朝 フランス王朝史3』
そのルイ一四世の財政を支えたのがコルベールの重商主義。
本書の冒頭に、こんなことが書かれています。
コルベールは、上着のポケットに入れて持ち運べるよう、金色に印字された小型の帳簿を作っていたのである。この習慣は一六六一年に始まっており、ルイ一四世は年に二回、自分の収入、支出、資産が記入された新しい帳簿を受け取った。ルイ一四世の時代まで、こんなものすら存在しなかったのか。
会計責任とは、他人の財貨の管理・運用を委託された者がその結果を報告・説明し、委託者の承認を得る責任を意味する。
しかし、コルベールの死後、この習慣はあっさりと投げ捨てられます。
なぜか?
⇒ 会計責任を取りたくなかったからだ。
ルイ一四世がやりたいようにやりたい、と思ったところで、コルベールが帳簿に書いている。
「そんな金ないよ」
面と向かって言えなくても、間接的に言えるのだ。
それをルイ一四世の立場に返したら、まるで、お小遣いが足りないとダダをこねている論理。
会計責任を取りたくないから、帳簿を破棄する―――――
そんなことをしてしまったおかげで、フランスに会計の文化が根付くのが遅れ、結果、イギリスに後れをとってしまいます。
イギリス:ウェッジウッド
会計の文化が根付いたことが、イギリスの産業革命につながります。
イギリス史上、最も成功した陶磁器メーカーのウェッジウッド。
技術力もさることながら、それを支えたのは会計―――――「原価計算」だ。
「この陶磁器はどれぐらいの費用で作れるのか?」
が計算できなければ、どうやって商売するのだろう?
原価計算をしていなければ、とんでもないボッタクリか、とんでもない出血大サービスになってしまう。
⇒ 商売、というより経営が成り立たない。
会計改革は抵抗に遭う
スペインは膨大な借金。
フランスは、ルイ一四世の絶対王政を築いたのに崩壊。
イギリスは、産業革命が開花する。
「お小遣い帳」「帳簿」「会計」と、どういう表現をしてもいいけれど、メリットしかないのだが、それがどうして反対されたのか?
悪いことができなくなるから
たとえば、徴税官。
誰々がいくらの収入があり、そのうちこれぐらいの税を取り立て、そこから手数料を引いて国庫に納入する。
帳簿があればクリーンになるのだが、帳簿がなければ掠め取ることができる。
そもそも、帳簿がなければ、いくらでも悪用できる。
責任を取りたくない
「商売失敗してますよ」
「戦争が財政難を招いてます」
言われたくないだろうけれど、事実は事実だから仕方がない。
正確な情報がなければ、正しい判断ができるわけがない。
正しく帳簿をつければ、正しい情報が手に入り、正しい判断ができる。
正しい判断の結果、
「あなた、間違えてますよ」
と言われたくなかった―――――
そもそも難しい
上述の「原価計算」でさえ、簿記を知らない人にどう説明すればいいか?
陶磁器の原価に、直接材料費と直接人件費と直接経費と間接製造費があって・・・・・
知っていても説明するのがめんどくさくなって、
「簿記検定、受けてね」
と言ってしまいそうだ。
「難しい」といっても、身につければ庶民レベルではビジネスの成功、官僚レベルでは国家の繁栄。
あらましぐらいは知っておこう。
知らなくても目を通すぐらいのことはしておこう。
まとめ
・会計が文化の中に組み込まれた社会は繁栄する。
・会計改革は抵抗に遭う。