【読書】『未来の地図帳』
- 日本全体で見れば「東京一極集中」だが、東京圏で見れば「市街地一極集中」
- 今までは高齢者が増え若者が減る。これからは、高齢者も減る
東京では高齢者の絶対数が多すぎる - 豊かで便利でスマートな暮らし
- 拠点という「王国」を作る
- 基礎自治体を都道府県にする
- 働くことに対する価値観を見直す
- 「在宅医療・介護」から転換する
- 東京圏そのものを「特区」とする
一極集中
第三次産業を求めて
「就業構造基本調査」と「国勢調査」によると、第三次産業に就職を希望する女性が多い。そして、第三次産業は東京圏に集積している。
こうした産業構造を無視して「地方創生」を唱えたところで、東京一極集中の流れは止められない。
東京一極集中は、河合雅司さんも是正したほうが良いと考えている。しかし、河合さんのおっしゃるように、簡単に止められるものでもない。
それならそれで、一極集中を前提として、人口減少社会に備えた方が良いのかもしれない。
地方から地方都市、そして東京圏へ
共通しているのは、住民が地方から地方都市に流入しても、地方都市から東京圏へ流出していることだ。
しかも、地方では若い世代が減少している。地方都市は転入数が減少している上に、転出数が増加している。
地域差が出るのは、社会減のスピードだけではなく、地方都市を飛ばして、地方から東京に直接転出しているケースも多いことだ。地方都市へ転入する住民が二重の意味で減少している。
意外といっては失礼なのかもしれないが、福岡市は人口を増やしている。狭い区画の中に行政機関から商業都市までまとまっている。しかも、空港の立地がいい。羽田以上に便利なのでは、と思ったのは福岡空港ぐらいしか思いつかない。
福岡市は水不足に悩まされた。それが原因で宅地開発も企業誘致もできなかった。大規模工場の誘致に失敗したことが吉と出る。公害に悩まされることもなく、グローバル化の影響で工場の海外移転が進んでも、被害を受けなかったからだ。
東京圏でもムラが出る
団塊の世代のライフスタイルは、旦那様が働き、奥様は専業主婦、子どもたちは2~3人というものだった。
ある程度の広さを求めたうえで、価格で妥協しようとすれば、犠牲にされたのは旦那様の通勤時間、すなわち、郊外のニュータウンを求めた。
だが、現在では、夫婦共働きが当たり前で、通勤時間は犠牲にできない。しかし、その分、世帯収入が増えている。
子どもは1人、あるいはいない。よって、そこまで広くなくてもいい。
結果、都心に回帰している。ドーナツ化現象が解消されているわけだ。
とはいっても、東京23区も例外ではない。交通が不便であれば、人口は流出する。日本全体から見れば東京一極集中だが、東京圏から見れば、中心市街地一極集中になる。
逆の見方をすれば、便利な市街地に集中して住民が移動する。政府が主導することなく、コンパクトシティが実現する。
今までとこれから
2042年が境目
過去の出生数減少が、出産可能な年齢の女性を減少させてしまった。そして、女性がパートナーに選ぶのも同年代の男性なのだ。結局のところ、25~39歳の世代は、25から39年前に決まっていて、そこから計算すれば、出生数もある程度は推測できる。
もちろん、これは推測でしかなく、未来を預言するものではない。
しかし、希望的観測や安易な楽観で、現実のデータから推測できることに目を背けることも、建設的ではない。
2042年までは、若者が減り、高齢者が増える。
2042年からは、高齢者も減る。
問題なのは、全国一律で進むわけではない、ということだ。地域差が目立ってくる。
これからは東京の大都市
今までの少子高齢化と人口減少は、地方の過疎地での問題だった。
だが、これからは東京圏も少子高齢化と人口減少が表面化する。
過去の若い世代を集めてしまったため、東京圏では高齢者が激増する。地方では高齢者も激減する人口減少に陥る。
大都市と地方の過疎地の大きな違いは、大都市は絶対数が多いことだ。高齢者向けの施設やサービス展開が十分でないまま、高齢者の激増期を迎えることになる。
ただし、東京圏の郊外は、地方と異なり、交通網で結ばれ、インフラも全国的に見れば進んでいる。当初からのコンパクトシティが高齢者中心に変貌する可能性はある。
サービスの縮小
日本全体の減少スピードを考えれば、市区町村による”住民の綱引き”に勝者はいない。
「自分が生活の基礎を置く小さなエリアさえ、うまくいけばいい」といった考え方につきあっている暇はない。「国土のグランドデザイン2050」によると、人口6500人を下回ると、銀行、通所介護事業所、一般病院、遊戯施設、音楽教室、喫茶店といったサービスも経営が成り立たなくなる。
税収不足は、福祉や教育の縮小、インフラの公共サービスの維持すらままならなくなる。そもそも、勤労世代の減少は、自治体職員の不足につながる。
小中学校どころか、高校の存続も難しくなる。
医療機関や介護施設どころか、飲食店、理髪店、生鮮食料品店の徹底する地域も出始める。
自治体によっては立候補者の段階で定員割れで「無投票」で当選してしまう。そうなってしまっては行政のチェック機能の低下し、民主主義も崩壊する。
提案:豊かで便利でスマートな暮らし
少子高齢化と人口減少は避けられない。しかし、だからといって未来が不幸になると決まったわけでもない。今から準備し、取り組んでいけば、未来を明るくすることは可能である。いくら気休めのような情報をかき集めて、”束の間の安心”を得てみても、状況が変わるわけではない。次世代が続かない人口減少が「問題ない」はずがない。地道な努力を積み重ねる作業は辛くもあるが、われわれはこれに立ち向かわなければならないのである。
それは次の世代に引き継ぐ現役世代の責務であるが、自分自身の老後を明るくするためにもなる。
拡大路線による過去の成功モデルで東京圏が日本の経済成長を何とか牽引しているうちに、人口減少が続く地方の社会基盤を、人口が減ってもやっていけるように根本から作り直すのだ。人口減少を受け入れるか受け入れないかはおいておいても、生産性を高めることに異論はないはずだ。
何らかの方法で1人で2人分の作業がこなせれば、人件費が半分になるか、売り上げが2倍になるかである。どちらに転んでも悪い話ではない。
そこに住めば、豊かで、便利で、スマートな格好いい暮らしが手に入ると思えるような場所にすることが何よりの秘訣である。次の世代のための街作りも重要であるが、自分自身の老後のための街作りと考えればモチベーションも高まる。
方法論に異論があるとしても、目的に大きなずれはないと思うのだが、いかに。
拠点という「王国」を作る
河合さんは、敢えて「王国」という言葉を使っているのは、政府が推進しようとしているコンパクトシティとは異なるからだ。都市部の繁華街や商店街など「すでに賑わっている場所」や既存のインフラをうまく活用しながら展開していこうというのだ。
政府主導ではない。「すでに賑わっている場所」なら民間主導である。
それに、「個人でできることは自ら行う」方がいいだろう。行政サービスを拡充させようとすれば、高負担は免れない。それに、行政だって人口減少、働き世代減少による人手不足を免れない。それなら、自分(たち)でできることは自分(たち)で行った方が、低負担で済む。
また、河合さんはイタリアのソロメオ村をモデルに上げている。付加価値の高い製品やサービスを作り出し、自前のブランド化を図ることと、村の復興とワンセットにして、成功している。
売り上げは「単価」と「数量」の掛け算だが、売り手にとっても買い手にとっても、人口減少は「数量」の低下を意味する。
それなら、付加価値の高い製品やサービスを作り出し、「単価」を上げることができれば、人口減少社会にも対応できる。
基礎自治体を都道府県にする
過去の行政改革で定員がギリギリのところまで削減されている。今後は人件費削減での行政改革に期待はできない。
既存の自治体を前提とするのではなく、都道府県を基礎自治体にしてしまえば、住民の暮らしの影響は避けられる。
同時に、行政の担うべき分野と、住民が担うべき分野の、境界線を見直さなければならない。
行政の担うべき分野が減っていけば、税や社会保障の負担が上昇することも抑制できる。
令和時代は、「自分でできることは、どんなことでも積極的に取り組む」という意識と「行政に多くを頼むことはできない」という覚悟を持つことが不可欠となるだろう。
働くことに対する価値観を見直す
これからは、高齢者の激増と勤労世代の減少が起きる。それなら、少ない人数でも社会がまわる仕組みを作らなければならない。人手が足りなければ、それでも回る仕組みを作り出す。
河合さんは「遊ぶゆとり」がなくなることがこそが、我が国にとって最大に危機だと主張する。サービス残業や休日出勤とまではいかなくても、長時間勤務で疲れ果てて家に帰ってきたところに、育児が待っている、となれば、子どもを産もうというモチベーションが上がらないだろう。
「24時間闘えますか」から、最小限の努力で最大限の結果を出す労働に転換する。ようするに「生産性を上げる」ことだ。これは、若い世代や次の世代ばかりでなく、自分自身のためにもなる。
河合さんはオランダを例に挙げているが、熊谷徹さんは『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』でもドイツ人の生産性の高さを挙げている。
他国でできることだから日本でも、ということには簡単にはいかないが、他国の良いところは取り入れれば、生産性は上がる。
「在宅医療・介護」から転換する
在宅での介護は医療や介護の専門家だけでは成り立たない。地域住民や家族のサポートを必要とする。
人口減少と少子高齢化は、勤労世代の減少を招き、医療や介護の専門家の減少につながる。都会では近所付き合いが希薄になっているし、介護離職が増大すれば、人手不足に拍車をかける。
そうなる前に、元気なうちに集まって住んでしまえばよい。そうなれば、少ないスタッフで効率よく対応できる。スタッフが少なくできれば人件費も節約でき、社会保障費も減らせる。
自由主義の日本では難しいかもしれないが、自分が入居する終の棲家を、自分好みに作り出しておけば、自分自身が安心できる。
東京圏そのものを「特区」とする
地方では人口減少と少子高齢化が進むのだから、若者を集めることはできないし、マーケットとしてみれば縮んでいく。
となれば、海外マーケットに活路を求め、国際競争力を強化しなければならない。
よって、東京圏に、日本が得意とする産業や、成長分野の企業を誘致し、集積地を作る。
まとめ
- 日本全体で見れば「東京一極集中」だが、東京圏で見れば「市街地一極集中」
- 今までは高齢者が増え若者が減る。これからは、高齢者も減る
東京では高齢者の絶対数が多すぎる - 豊かで便利でスマートな暮らし
- 拠点という「王国」を作る
- 基礎自治体を都道府県にする
- 働くことに対する価値観を見直す
- 「在宅医療・介護」から転換する
- 東京圏そのものを「特区」とする