【読書】十字軍物語 第二巻

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 第一次十字軍終了後からサラディンによるイェルサレム奪還までが第二巻。
 神が、聖地を奪還してくれたわけでも、守ってくれるわけでもないので、自分たちで守るしかない。
 第二次十字軍がどうだったか?
 その間、十字軍国家はどうやって生き延びたか?
 サラディンは、どうやってイェルサレムを奪還したのか?

ポイント

  • 「兵とは国の大事」なんです
  • 文化交流でレベルアップ
  • 敵の戦力を無効化せよ

「兵とは国の大事」なんです

 一一四四年、エデッサ伯領陥落。
 この衝撃がヨーロッパ社会に激震を与えることになるのだが、そこで動いたのが修道僧ベルナール。
 フランス王ルイ7世の部下が、一三〇〇人に上ると言われた村の住民が逃げ込んだ教会を焼き払う、という惨劇を起こす。
 これが原因で聖務禁止令がフランスに出されてしまう。
 このネタを利用してフランス王を十字軍に送り出すことに成功。
 そして、返す刀とでもいう形でドイツ皇帝コンラッドも説得に成功する。
 第一次十字軍が「諸侯たち」だったのだが、第二次は「王と皇帝」と華々しいスタート―――――
―――――スタートだけで終わります。
 戦略目標がエデッサ伯領ではなく、ダマスカスになってしまったのも、妙なことなのだが。
 援軍として、「ヌラディン接近」と聞いただけで、あっという間にUターン。

 アッコンを出発してから二週間足らず、
 ダマスカス領内に足を踏み入れてからは一週間、
 ミザー・ヤバルに陣を築いてから五日、
 敵と闘い始めてからならば四日、
 の後の「撤退」であった。
 なんとも情けない十字軍。
 キリスト教世界は「絶望」する。
 イスラム世界は「歓喜」する。

 余波はこれに留まらない。
 ルイ七世の情けなさに呆れた夫人エレオノールは離婚を申し出て、成立。そして、11歳年下のノルマンディー公アンリと再婚。
 このアンリが、ヘンリー2世としてイギリス王に即位。
 エレオノールは、フランス西南部のアクィテーヌ地方の相続人。その領土はフランス王の直轄領よりも大きく、現在のフランスの四分の一に当たる。
 それほど広大な領土が、フランス王から離れ、イギリス王の領地になる。
 英仏百年戦争の要因に―――――フランスまで騒乱に陥れたのである。

 あっちこっちを困ったことにしてしまった、ベルナールの言い分は、

「神が良しとされない者たちが行ったのだから、失敗に終わるのもしかたがなかった」
 誰がやらせたんだ?
 「兵とは国の大事なり」といったのは孫子。
 無能な司令官の下で、情けない軍事行動。
 犠牲になった将兵は報われないし、味方は絶望し、敵は狂喜し、中近東ならずフランスまで騒乱に陥れて、発案者は言い逃れとは。

東西文化交流でレベルアップ

 塩野さんは、第二次十字軍が失敗してからイェルサレム陥落までの40年間、十字軍国家が生き延びられた要因に、
・宗教騎士団
・城塞
・経済の交流
を挙げている。
 「城塞」と「経済交流」だけ挙げる。

城塞

 兵力の絶対的な不足に苦しむ十字軍国家にとって、「城塞」という軍事拠点を作って、活用するしかない。
 このことが、ヨーロッパの城塞のレベルアップにつながる。
 アラビアのロレンスが―――そんなことをやっていたとは知らなかったのだが―――考古学的な見地に立って研究した結果、中近東の城塞はヨーロッパの城塞の影響を受けて建造されていると唱えた。
 これから研究が進み、分かったことは、
・十二世紀に入ってからは、ヨーロッパの影響を受けている
・十二世紀後半から、独自の建築様式を確立する
・十三世紀にはいると、ヨーロッパのほうが中近東からの影響を受ける
ということが分かった。
 十字軍が城塞のレベルアップにつながった。
 軍事技術というのが難点だが、文化交流が技術アップにつながる。

絨毯

 宝石・香味料・没薬・石鹸・モスリン織・ダマスカス織などなどが、中近東からヨーロッパに持ち込まれる。
 ヨーロッパの城塞は、耐寒用に動物の毛皮を敷いていたのだが、絨毯が活用されることになる。
「ベルサイユ宮殿に、クマの毛皮が敷き詰められていたら?」
と思うと、おしゃれな宮殿ではなくなってしまうかもしれない。
 異文化との交流がおしゃれ度アップにつながった。
 こういう平和的な交流に終始してくれたらよかったのにね。

敵の戦力を無効化せよ

 十字軍国家を攻めるには、城塞の攻略が不可欠。
 しかし、イスラム側は、経験から、自軍が城塞を攻めると、失敗することを学んだ。
 それなら、攻めなければよい―――――サラディンは、戦術を変える。
 城塞は攻めない。ただし、大軍を間に通すことによって、城塞を無効化する方法に。
 『「超」入門 失敗の本質』では、
「ゲームのルールを変えた者が勝つ」
とあるが、このお手本になる好例。
 そして、ハッティンの戦闘で勝利。
 一一八七年一〇月、サラディンはイェルサレム入場を果たす。

まとめ

  • 「兵とは国の大事」なんです
  • 文化交流でレベルアップ
  • 敵の戦力を無効化せよ