【読書】『未来の年表』【戦略的に縮む】

読書読書,未来の年表,河合雅司

ポイント

  • これから日本で
    「出生数減少」
    「高齢者の激増」
    「社会の支え手の不足」
    「人口減少」
    がまとめて同時に進行する。
  • 提案は「戦略的に縮む」こと。
  • 次世代に日本を引き渡す責務がある。

静かなる有事

出生数減少

 じつは、いくら合計特殊出生率が改善しても人口は増えない。
 なぜなら、これまでの少子化の影響で、25歳から39歳の女性が減少しているからである。そして、25歳から39歳の女性がどれくらいいるかは、25から39年前に決まっている。ゆえに、出生数減少は当面の間、続く。

 18歳人口も18年前に決まっている。ゆえに、各年の出生数を見れば18歳がどれぐらいいるのかが想定できる。
 しかし、少子化が続いているにもかかわらず大学を増やしてしまった結果、選り好みしなければ、誰でも大学に入れる。悪い見方をすれば、学力不足の者でも大学生になれる。
 この影響は学力の分野だけに留まらない。各分野で競争率が下がっているので、切磋琢磨が起きにくい。よって、全体のレベルが上がりにくくなっている。

高齢者の激増

 「少子化」対策と「高齢化」対策は、そもそも別の問題なのである。
 それは、仮に少子化が解決したとしても、高齢者が減ることはない。高齢者「率」が下がっても、高齢者「数」は激増する。これは、世代別の人口数を見ればわかる。
 2024年に団塊の世代がすべて75歳になる。2042年には団塊ジュニアが高齢者になる。
 この問題が複雑さを増しているのは、全国一律で進むわけではない点である。
 団塊の世代も、団塊ジュニアの世代も、大都市圏に集まっている。ゆえに、これまでは、少子高齢化は地方で先行して進んでいたが、これからは大都市圏でも急速に進む。
 イメージと異なるのは、地方では、総人口は減るが高齢者数は増えない。これから高齢者になる「高齢者予備軍」がいないから。
 対して、大都市圏では総人口はあまり減らないが、高齢者の実数が増える。「高齢者予備軍」を大きく抱えている。

社会の支え手の不足

 少子高齢化に伴い、労働人口が減少する。それは、注文が殺到しても人手不足で断らざるを得ない、という状況を招く。また、労働供給量の減少は賃金の上昇を招くのは経済学の鉄則。人件費の上昇は、経営を厳しくする。
 労働者不足の減少は、消費者の減少も意味する。消費が冷え込めば経済は停滞する。
 しかも、現在の社会保障システムは、若者が高齢者を支える方法。高齢者が増え若者が減れば、若者一人当たりの負担が増加する。
 社会保障の充実を推進すれば超高負担を受け入れなければならないし、高負担を回避しようと思えば低福祉で我慢しなければならない。解決できなければ、高負担低福祉が待ち構えている。
 道路や水道といったインフラの老朽化も進む。技術者が不足するばかりでなく、財源も不足するため、メンテナンスが進まない。耐用年数を超えて使い続ければ、ある日、突然、大事故が起こる。

 高度経済成長は、全国から有能な人材を集めて、生産性の高い仕事を東京圏で行い、地方には部品生産などを任せるという分業で成り立ってきた。ゆえに、地方では低賃金の単調作業が中心となった。これが東京一極集中を加速させた要因である。
 この構造にメスを入れることなく「地方に雇用を創出する」といくら叫んでもむなしい。

人口減少

 少子傾向にありながら人口が増え続けたのは、平均寿命が延びたからである。これからは高齢者も減っていく。
 人口の減少は、医療、百貨店、銀行、老人ホームなどなど、これまで当たり前のように存在していたサービスの経営を厳しくする。
 これまでは地方で先行していた高齢化と人口減少は、東京圏でも表面化する。すなわち、地方で起きていたことが、東京圏でも起きる。
 人口が減っているのに住宅の供給を増やしてしまった結果、空き家が急増する。
 空き家の急増は、景観の悪化ばかりでなく、倒壊の危険を高め、犯罪も誘発する。街全体のイメージが悪化すれば、住民が流出し、やがて地域社会全体が崩壊する。
 マンションだと、空き室が増えると管理組合が維持できなくなる。管理体制の悪化は、借り手を減らし、さらに空き室を増やす。しかも、頑丈な分だけ解体に費用が掛かる。そこに、各所有者の利害が絡めば、問題解決は複雑化する。
 国境離島、外洋離島が無人化する。住民がいなくなれば通報者もいなくなる。国防が困難になる。
 離島ばかりの問題ではなく、本土でも問題は起きる。外国人労働者の受け入れと永住権付与は、外国人比率を高めることになる。このような状況での民主主義は、合法的に外国人が日本を占拠できるということになる。

提案は「戦略的に縮む」こと

人口激減後にどのような社会をつくるのか、われわれの構想力が試されている。いまこそ「20世紀型成功体験」と決別するときなのである。

戦略的に縮む

①高齢者を削減
 高齢者のことを”お荷物”扱いする風潮は明らかにおかしい。対応が間違っているだけのことであり、取り組みを変えれば、社会は全く違うものになる。
 高齢者を減らすといっても、物騒なことをするのではなく「高齢者」の定義を変えるのである。
 そもそも「高齢者」に対する厳密な定義はない。それに、単に年齢区分で「高齢者」と決めつけるのもおかしな話だ。
 「死ぬまで働かせるつもりか」と怒る方もいるだろうが、そうしてもらいたい尊敬できる大先輩もいるだろう。

②24時間社会からの脱出
 「便利すぎる社会」からの脱出である。
 「過剰サービス」は労働者の長時間勤務を生み出している。不要不急のサービスを見直し、多少の不便さを受け入れることだ。
 24時間365日営業しているコンビニの人手不足は明らかになっている。これは簡単に見直せるはずだ。現在でもドイツにはコンビニがない。この程度のことはどこの国でもできるはずだ。

③非居住エリアを明確化
 人が住む地域と、そうではない地域を区分し、コンパクトで効率的な国に切り替えること。
 コンパクトシティでは自家用車がなくても用事を済ませることができるかがポイントになる。

④都道府県飛び地の合併
 そもそも、住民の生活圏と行政の区割りは、必ずしも一致していない。
 人口激減社会では、市区町村の枠組みに縛られない対応であり、住民の生活圏に即した施策の展開である。
 自分の住む土地や故郷に愛着を持つのは自然な感情である。しかし、求められているのは人口減少に対応できる行政機構の確立である。

⑤国際分業の徹底
 労働力人口が減少していく以上、日本人自身でやらなければならない仕事と、他国に委ねる仕事とを、思い切って分けてしまう。
 育成する産業分野を絞り込んで投資する、それに応じた人材育成を行う。

豊かさを維持する

⑥「匠の技」を活用
 労働人口下減る中で経済を成長させていくには、これまで以上に生産性を向上させなければならない。
 そのためには少人数で上質な製品を造る「少量生産・少量販売」のビジネスモデルを選択する。
 発展途上国の追随を許さない、付加価値の高い製品で勝負する。

⑦国費学生制度で人材育成
 付加価値の高い仕事を生み出し、生産性を大きく向上させるには、イノベーションを起こす必要がある。
 起きるのを待っているのではなく、社会の変化を先取りし、解決すべき課題を洗い出す能力を引き出す必要がある。
 すべての学生や学校に一律支給するのではなく、イノベーションへの取り組みを進め、実績を上げている大学に優先して重点配分する。

脱・東京一極集中

⑧中高年の地方移住推進
 アメリカでは、リタイア後のまだ元気なうちに都会から移住し、大学キャンパスで学生生活を楽しみ、体が弱ったら大学病院直結の分院や介護施設にお世話になるシステムがある。アメリカでは富豪の「終の棲家」になっている場合も多い。これを日本流にアレンジする。
 それに東京圏ではこれから高齢化が進む一方、地方では高齢者が減る。医療・介護難民に陥るリスクを、自分で回避できるメリットがある。

⑨セカンド市民制度を創設
 定住人口が減る自治体は、定住人口ではなく、地域への訪問者を増やしリピーターになってもらう。一度きりの観光客ではない。その土地に愛着をもって繰り返し足を運んでくれる人を増やす。
 「第2の居住地」として登録し、「セカンド市民」として住民登録をする。
 今後は日本全体で人口が減少する。自治体同士で定住人口の奪い合いをするのではなく、活発に交流できるシステムを作る。

少子化対策

⑩第3子以降に1000万円給付
 日本では未婚で出産する女性は少ない。そのことから考えれば、雇用を安定させ、出会いの機会を作る必要がある。
 とはいえ、結婚・出産は個々人の選択である。子供を持つことに大きなメリットを感じられるような対策が必要になる。
 1000万給付だと親が遊興費に使う可能性がある。そうならないような仕組みが必要になる。
 ここで重要なのは、現金や金額ではなく「インパクト」である。「インパクト」さえあれば別の方法でも構わない。

次世代に日本を引き渡す責務

われわれが目指すべきは、人口激減後を見据えたコンパクトで効率的な国への作り替えである。

次世代に日本を引き渡していく以上、今を生きる人々だけが「おいしい思い」をする政策はとるべきではない。
 忘れてはならないのは、日本は現在を生きる人々のものだけではないということだ。次の世代に、この国をしっかり引き継いでいかなければならない。
 私は”夢のある未来”を「戦略的に縮む」ことに見出そうと思う。それは、小さくなったなりに豊かな国であり続けるということだ。
 人口減少に備え、国家の土台を作り替えていくには、さまざまな分野、角度からの検討が不可欠だが、政治家や官僚だけですべての分野を網羅できるはずもない。幅広い分野から専門家を招いて議論する場が必要となるだろう。

まとめ

  • これから日本で
    「出生数減少」
    「高齢者の激増」
    「社会の支え手の不足」
    「人口減少」
    がまとめて同時に進行する。
  • 提案は「戦略的に縮む」こと。
  • 次世代に日本を引き渡す責務がある。