【読書】『ドイツ人はなぜ、年290万でも生活が「豊か」なのか』【金銭では測れない価値を意識する】

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 以前『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』で、ドイツ人が働き方改革ができたのは「国民性だ」と書いた。
 しかし、改めて考えさせられたのは、「国民性」を作り出したのは「社会の合意」である。長い時間をかけて作り出し、それを維持してきたのである。
 こういう「比較文明論」は、「〇〇人だから・・・・・」という方向で諦めたり、優劣を決める議論を進めるのではなく、両者の違いを比較検討することで、別の視点から物事を見つめ直すキッカケにすることである。
 常識と思われていることでも、改めてよく考えたら本当にそうだったのか、考え直してみることである。
 問題解決の糸口が、比較文明論には秘められている。

ポイント

  • 自分でできることは自分でする
    → 過剰なサービスをやめる
  • 仕事の属人化を薄める
    → 仕事のシステム化をはかり、生産性を上げる
  • 金銭では測れない価値を意識する
    → 子どもたちに美しい環境を残す

自分でできることは自分でする

サービス砂漠

 熊谷徹さんは”ドイツはサービス砂漠だ”と断言している。前掲書でも書かれていたが、ここまでとは。。。。。
 商店やレストランの店員の態度の悪さだが
・高額紙幣(100ユーロ紙幣、日本の1万円札に相当)を出すと、叱られる
・レストランでは皿をとれと命令される
・注文を取りに来ないどころか、メニューすら渡しにこない
・コースターを、店員が客に向かって投げる

私は、忍者が手裏剣を投げる光景を思い出した。
 余談だが、思わず笑ってしまった。愚痴を言うのにもユーモアが必要だ、と熊谷さんから学んだ。
 もっとひどいのは、郵便局や宅配便業者だ。
・宅配便を使うと、かえって時間がかかる
・再配達を依頼しても、すっぽかす
・そもそも、不在票が入っていない
このため私は日本の出版社や新聞社の担当者には、「国際配達便で雑誌やゲラ(校正紙)などを送らないでください」と頼んでいる。
 すでに、信用を失っている。事業として成り立たないのではないだろうか。

開店法

 ドイツには「開店法」という法律があり、店を開ける時間が規制されている。
 日曜と祝日の営業は原則禁止。午後8時から翌朝6時まで店を開けない。例外は、ガソリンスタンド、薬局、空港や大きな駅の売店など。
 熊谷さんも慣れないうちは大変だったそうだ。しかし、慣れてしまえば困ったことはない。事前に購入しておけばよいのだ。
 ドイツでは大半の客が、店で働いている人や配達人にも「休む権利」があると思っている。自分が休むから、相手も休むのだ、という社会的な合意がある。よって、「ちょっとした不便」をお互い様と我慢するのだ。

過剰なサービスをやめる

過剰サービスをやめれば、商品やサービスの値段も安くなる。
 つまり、社会が過剰サービスを減らすことで生活コストを低くし、自由時間を増やしている。このため収入が低くても「ゆとり」のある暮らしを送ることができるのだ。

 熊谷さんは、パン屋さんの過剰包装を例にとって挙げている。日本では個別にビニール袋に入れてくれるが、ドイツでは一つの紙袋にまとめて入れる。
 ドイツ人は、サービスは有料だと考えている。それに、きめ細かいサービスをするために人件費を増やすことより、値段を安くしてくれる方を望んでいる。
サービスに対する期待度を下げてしまえば、サービスが悪くてもあまり不快に思わない。(中略)いやな思いをするのは結局自分である。
 たしかに、お中元やお歳暮も、簡易包装に慣れてしまえば、不都合はない。むしろ、完全包装だとゴミが増えて、逆に迷惑だった。その分、本体価格を下げるなり、内容量を増やすなりにしてくれた方がありがたい。

 ドイツのレストランや宅配便のケースを見ると疑問を持たざるを得ない。しかし、パン屋さんのビニール袋のケースを見ると、日本のサービスは過剰なのではないかと思う。
 どこまでのサービスを行うべきで、どこからのサービスが余計なことなのか、考え直してみた方がいい。

 そして、なによりも、自分でできることは自分で行うことだ。
 ドイツ人はDIYが得意だそうだ。それもプロ顔負けなほどに。
 購入した家をリフォームして自分仕様にして快適にしたり、付加価値を高めて、高値で売却する。自動車のタイヤ交換、自転車の修理、部屋の壁の塗装も朝飯前だ。
 他の人にお金を出してサービスしてもらうよりも、自分でやってしまえばコストは削減できる。

仕事の属人化を薄める

2~3週間の長期休暇

 ドイツでは、1日10時間の労働は禁止されている。6カ月平均で1日当たりの労働時間を8時間以内にしなければならない。
 監督省庁は日本より厳しい。悪質なケースでは刑事告発することもある。1年以下の禁錮刑を科せられる可能性がある。そうなれば、前科がつく。
 管理職がポケットマネーで罰金を払わさせられることもある。
 法律で年間24日間の有給休暇を与えることを義務づけているが、大半の企業は30日の有給休暇を与えている。
 100%の取得が当然であり、組合やさらに上の上司からにらまれたくない管理職が、部下に有給休暇を取らせようとしている。
 残業時間も10日まで代休にすることができ、多くの人が代休に充てている。

 また「ドイツでの新しい通貨は自由時間だ」という見方が強まっている。仕事はほどほどでいい、給料を上げるために家族と過ごす時間を犠牲にしたくない、と考える人が多い。
 ドイツのサービス水準は低いし、彼らも求めていない。過剰なサービスよりも、人件費を節約して、価格を下げることを求めている。その結果、働く人は労働時間が短くなり、消費者はモノの値段が割安になる、というメリットがある。
 また、人手不足が深刻化している。優秀な人材をつなぎとめておくためには、彼らの希望に答えなければならない。

 そして、ドイツ人は2~3週間の長期休暇をまとめてとる。
 他人がとっても文句は言わない。自分も取るからだ。
 そして、長期休暇を取得しても会社がまわるのは、システムが出来上がっているからだ。

 私は長らくドイツで働いた経験に基づき断言するが、社員が交代で2~3週間の休暇をとっても、会社は回る。1日の労働時間を10時間までに制限しても、経済は停滞しない。同じ結果を生むならば、短く働いて自分の時間を多く持てる方がいい。これは国籍、人種、文化を問わず、どの社会にも当てはまる心理のはずだ。

仕事のシステム化

日本とドイツの産業構造を研究している学者の中には、「ドイツ人がシステム思考に長けていることが、彼らの経済システムが比較的少ないインプットでも回っている理由だ」と分析する人がいる。

 ドイツ人の行動パターンを理解するには、「効率性」がキーワードになる。労力を最小にすることで、生産性を高めている。
 ドイツでは「自分の生活を重視する」という社会的な合意ができている。アウトプットが変わらないのなら、労働時間を減らすことは悪いことだとはみなされない。

日本の生産性は低い

 2017年、OECDによると、ドイツ人は年間1356時間しか働いていないのに対し、日本人は1710時間も働いている。
 しかし、1人あたりGDPは、ドイツの43,892ドルで、日本の38,702ドルとなり、日本人の方が長く働いているのに1人あたりGDPは低い。
 当然のことながら1時間あたりのGDPにも差が開き、ドイツの69.8ドルに対して、日本の46.9ドルとなる。
 データがハッキリと物語っている。ドイツの生産性は高く、日本の生産性は低い。
 業界別に見れば、製造業、特に自動車業界はドイツより日本のほうが生産性が高いと言われている。サービス業の生産性は、ドイツより日本のほうが低い。 

金銭では測れない価値を意識する

29年の定点観測で強く感じることの一つは、ドイツ人が金銭的に測ることができない価値を日本よりも重視しているという点だ。ここにはお金に換算できない「豊かさ」がある。

自然を満喫する

 ドイツ人が休暇で重視しているのは「太陽の光と自然」である。
 湖や川の水質を厳しく管理している。汚染者に対する罰則も厳しい。それゆえに、湖や川で泳ぐことが当たり前のようにできる。自然環境を守ることの大切さは、頭ではなく、皮膚感覚で体験できる。
 日本ではマネできないのはドイツは連邦制だからだが、首都一極集中は起きていない。都市の規模が小さいから、自転車で通勤できる。自転車を趣味にする人が多いのは、自転車さえ買ってしまえばあとは追加費用はそれほど掛からない。
 ジョギング、散歩、ハイキング、登山、スキーなどを趣味にする人が多い。

リサイクル率が高い

 日本人は新しい物や流行の先端を行くものが好きだ。しかし、ドイツ人は新製品に飛びつくよりも、古いものを大事に使ったり、中古品を使うことに慣れている。
 また、1996年に「循環型経済法」という法律ができ、リサイクルが義務付けられた。ガラス瓶やペットボトルに入れられた商品には貸出料金が含まれている。リサイクルすればお金になるのだから、モチベーションは上がる。
 OECDによると、2017年のドイツのリサイクル率67%で世界一だ。日本は2015年時点で21%と大きく水をあけられている。
 日本のリサイクル率が低く見積もられていることに疑問を感じるが、これは焼却率が高いからだ。2016年の日本の焼却率は69%で、ドイツは25%である。リサイクル率に疑問を感じたとしても、ゴミを減らすことに異論はないだろう。焼却することにもコストはかかる。焼却率を下げることができれば、その分のコストも削減できる。

 また、フードロスが問題になっている。フードロスの定義は、国際組織や国によって大きく異なる。
 定義がまちまちであっても、世界で問題になっているのは、作りすぎて売れ残った食品の廃棄量が多いこと、だ。
 食べ物を捨てることそのものがもったいないが、それを作る人の人件費も捨てているのだ。また、捨てる人の人件費もかかるのだから、何重にももったいないことだ。
 従業員は仕事が増えるし、経費が利益を圧迫すれば、経営を難しくする。
 「捨てるような食品を、はじめから作らなければよいのに」という単純な発想ができないのはなぜなのか、を考えた方がいい。
 残業で遅くなって、閉店直前のスーパーに駆け込んで、お弁当があったらありがたい、かもしれない。
 しかし、そのお弁当が売れなかったら、捨てられてしまうのだ。フードロスにもなるし、人件費もかかる。捨てる人間の労働時間も長くなるし、作っている人の労働時間も長くなる。人件費が価格に転嫁されれば、お弁当が高くなる。人件費の回収ができなければ、事業は立ち行かなくなる。
 遅くなったらあきらめればいいだけのことだし、そういうときのための保存食を用意しておけばよい。
 そもそも、残業しなければいいだけのことだ。

子どもたちに美しい環境を残す

 ドイツでは、子どもたちに美しい環境を残すという考え方が主流になっている。
 日本では、2011年の福島の原発事故まで、エネルギーに対する関心は低かった。ドイツ人は、それ以前からエネルギー問題についての関心が高かった。
 その理由は、ドイツ人は環境保護への関心が高かったからだ。
 再生可能エネルギーには莫大なコストがかかる、よって電気料金が高くなる。それに、ドイツ人は倹約家だ。それなのに、再生可能エネルギーの莫大な費用の負担を受け入れている。
 それは、自然環境の保護に資金を投じた方が、結局は、自分たちの「トク」になると考えているからだ。そして、それは経済的選択ではなく、持続可能性が高い社会を作るという政治思想的な選択だ。
 多少のコストを受け入れてでも、原子力と化石燃料への依存から脱却すること。それが、自分たちの住む環境を守ることにつながり、未来の世代に美しい環境を残すことにもつながる。
 とはいえ、日本も含む先進国では、経済成長してもエネルギー消費は減っている。IoT技術の導入で消費電力量の節約に成功しているのだ。今後の技術革新により、エネルギー節約はさらに進むだろう。
 美しい環境を残すことに異論はないはずだ。自分自身のためにもなるし、子どもたちのためにもなる。

まとめ

  • 自分でできることは自分でする
    → 過剰なサービスをやめる
  • 仕事の属人化を薄める
    → 仕事のシステム化をはかり、生産性を上げる
  • 金銭では測れない価値を意識する
    → 子どもたちに美しい環境を残す