【読書】『キリンビール高知支店の奇跡』【「たっすいがはいかん」の影に隠れたストーリー】
高知に行って「ひろめ市場」で撮ったこの写真。
まさか、読書の書評で使うことになろうとは。
たっすいがはいかん
って、なんなんだ?
この言葉の裏に、こんなストーリーがあったのか。
どうせググればわかるんだけど、ネタバレのため、何よりもビジネスパーソンなら本書を読んでほしいな~、という思いから書きません。
読み込んでいるうちに、『「超」入門 失敗の本質』の言葉を思い出したので、それを使いながらレビューを書きます。
キリンビールの戦略目標は「美味しいキリンビールを飲んでいただくお客様を増やすこと」と「お客様に喜んでいただくこと」
「本社から下ってきた命令を、忠実に実行する」ことは、戦略目標とは一切関係ないのです。
②リーダーが現場を知ること
あらゆる手をつくして、情報を集めること。
正しい情報から判断して、行動を変えれば、勝てる。
正しい情報を共有すること。
戦略とは追いかける指標のことである
『「超」入門 失敗の本質』では、
戦略とは追いかける指標のことである
と定義しています。
指標を正しく決めることが「目標につながる勝利」を決めることである
として、日本軍の敗因の一つに
目標達成につながらない勝利
を挙げています。
キリンビールの「勝つこと」とは?
- 美味しいキリンビールを飲んでいただくお客様を増やすこと
- お客様に喜んでいただくこと
ビジネスマンとして、自分の扱っている商品・サービスに自信を持てるのはいいことだ。
しかし、当時のキリンビールはそうではなかったそうだ。
闘う相手はライバルではなく社内の風土
売上が悪くなると、本部は管理を強化する。
その結果、官僚主義・形式主義・実行より手続き・現場より会議・本質よりも分析。
こうなると、現場の人間も、本社で作った方針や目標を、いかに実行して、その達成度を高めるかしか考えない。
やることが多すぎて、それをこなすだけ。
責められても、それをこなすだけで大変です、という言い訳。
一生懸命やっているつもりだから、夜、飲んでグダグダ言って終わり。
リーダーもそれを黙認。
営業に行っても、本社から支店への指示を、量販店に伝えるだけ。
これでは、相手からしてみたら、キリンは何をしたいのか分からない。
結果、キリンという会社への興味がなくなる。
まさに負のスパイラル。
僕もサラリーマンなのでよくわかりますが、無駄なミーティングで時間が奪われる、役に立たない報告書を書かさせられる。
こうなってしまうと、戦略目標が
「本社から下ってきた命令を、忠実に実行する」
ことに変わってしまう。
本来の戦略目標は、
「キリンビールを飲んでいただくお客様を増やすこと」
「お客様に喜んでいただくこと」
だったはず。
「本社から下ってきた命令を、忠実に実行する」ことは、戦略目標とは一切関係ないのです。
理念・ビジョン・行動スタイル
「理念で飯が食えるのか」と陰口をたたかれたこともあるそうですが、この、「理念」こそが追いかける指標。
そして、そこからビジョンが生まれ、行動スタイルが決まるのです。
キリンは残すべき会社だし、愛されてきた美味しいキリンビールをひとりでも多くの高知の人に飲んで喜んでいただきたい。その結果、営業がどう変わったのか?
この理念を実現するには市場ではどんな状態が必要なのか。
それは、どこに行ってもキリンが置いてあり、欲しいときに手にとっていただけるという状態です。なぜならそのような状態にあるビールの銘柄がいちばん売れているビールだ。それなら自分も飲もうと思っていただけるからです。
このあるべき状態、これが「ビジョン」です。高知支店ではいつしか「数値目標」というものがなくなっていました。
「並ぶビニールハウスのすべての冷蔵庫にキリンビールが入ったらすごいな」「本社から下ってきた命令を、忠実に実行する」だけでは、こんなことを考えることすらなかったはず。
また海側を担当していた営業マンは港で漁に出ていく船を見て、あの船にはキリンビールは積まれているのだろうか、と考えました。聞けば、遠洋漁業の船は100ケースのビールを積んで出港していくという。それがすべてキリンビールになったらすごいな、と思いました。
「キリンビールを飲んでいただくお客様を増やすこと」「お客様に喜んでいただくこと」が追いかける指標になったから、考え方が変わったのです。
リーダーが現場を知ること
『「超」入門 失敗の本質』では、
(1)現場最前線の体験を正しくフィードバックすること
(2)それを正しい戦略で目標達成の精度と速度を高めていくこと
2点の重要性を指摘しています。
勝利するためには、正しい情報を集めることが重要なのです。
そんなことをしてたのか!
これを読んだとき、「そんなことしてたのか!」という驚き。また花見や祭りが行われた翌日の朝に必ず現場に足を運ぶようにしていました。ビールの空き缶が溢れているゴミ箱を調べるのです。どの銘柄が飲まれているか、キリンの空き缶はどれくらいあるかをチェックしました。
次に敬服。そして、自分自身への反省。
そこまでして情報を求めていたのか。
そして―――――
1998年の花見シーズン。ビールは全部キリンにしてしまおうか。
花見で飲むビールの銘柄は人気投票のようなものです。
宴の翌朝現場に行ってみると、ゴミ箱には昨年まではアサヒ8割、キリン2割だったのが、ほぼ互角の空き缶の数になっていました。
では、どうやって達成したのか?
量販店から料飲店へ
かなり感情もこじれたころ、「酒販店を回って本社が言う通りのことをやってもお客さんが買ってくれないのだから負け続けるのは明白じゃないか」という意見が出てきました。
営業して数字に跳ね返りやすいのは、やはり料飲店ではないのか。料飲店を攻めたほうが成果があるのではないか?
そのとき支店でいちばん若い、入社3年目の営業マンが焦れたように手を挙げ、「わかっていることなら、やればいいんじゃないでしょうか。やりましょうよ!」と発言しました。
本来なら大きい市場に注力するべきですが、わたしは営業力の効きやすい料飲店にターゲットを絞りました。高知の人の生活を今まで観察し、宴会に年間270回出て、いかに外で飲む機会が多いかということがわかっていました。また、料飲店でキリンビールを飲んで「やっぱりキリンが旨い」となったときには家庭で飲むビールのブランドスイッチもあり得ます。「パレートの法則」に従えば、大きいところに力を注いで、小さなところで力を抜くのがセオリー。
それをビール業界に応用すれば、売上の大きい量販店に営業のエネルギーを使い、料飲店は力を抜く。
それはそれで本社が正しいと思うけれど、結果が出なければ・・・・・
「じゃあ、高知は料飲店を回って結果を出そう」
という考えにシフトチェンジ。
現場のことは現場の人間が一番知っている。
だからこそ、行動スタイルを変えることができたのです。
本社との情報量のギャップを埋める
これは現場の責任として、猛省。本社や四国地区本部の人たちと話す機会が増えるにつけ、同じ会社なのになぜこれだけ意見と結論が違ってしまうのだろうと不思議でした。高知の市場で今やるべきことや、今とるべき商品施策が本社と高知支店で違ってしまうのです。
そのうちわかってきたのは、もつ情報量が決定的に違うということでした。情報量が違わなければ、結論はそれほど変わらないはずだと思いました。この情報量のギャップを埋めるのは現場のマターとなります。
確かに、正しい情報を持っていなければ、正しい判断を下せるわけがない。
現場の状況を報告する義務が、現場の人間にはあるのです。
会社や上司を批判することは、誰にでもできます。景気のせいにすることも、誰にでもできます。ライバルメーカーのせいにすることだって、誰にでもできます。
しかし、それでは、1円のお金にもならないのです。
批判するぐらいなら、代案を提示しよう。
そして、正しい情報を報告しよう。
そうしたら、歩み寄れるかもしれないのです。
余談:出世するのも難解だな
しかし、戦略を絞ると、本社から命じられた他の施策はどうしてもおろそかになってしまいます。実際、支店長としては現場・市場の現実から、本社からの施策の一部に対して「これは流しておけ!」などという指示も出さざるを得ませんでした。
けれどもわたしは「本社には適当に報告しておくこと」と言っただけでした。上の話の流れからいけば予想できることなのですが、本社には相当逆らったのでしょう。
「流しておけ」「適当に報告しておけ」というのは、処世術。
結果にこだわるビジネスパーソンなら、そうなってしまうことでしょう。
そこで、結果を出し、「じゃあ、全社の指揮とってよ」ということになり、本社に戻ることになると・・・・・
2007年3月、わたしは12年ぶりに東京の本社に戻り、営業部門と商品部門を統括する営業本部長に着任しました。東京に赴任する車中、今まで「本社の言うことを聞くな」と言ったこともあるけれど、これからは「本社の言うことは全部聞け」と言うのか、複雑な気持ちだな、とか、思わず笑ってまったのだけど。
結果を出した人、それが認められた人って、こういう展開が待ってるのか。
でも、こういう展開って幸せなことなんだろうな。
まとめ
①戦略とは追いかける指標のことである
キリンビールの戦略目標は「美味しいキリンビールを飲んでいただくお客様を増やすこと」と「お客様に喜んでいただくこと」
「本社から下ってきた命令を、忠実に実行する」ことは、戦略目標とは一切関係ないのです。
②リーダーが現場を知ること
あらゆる手をつくして、情報を集めること。
正しい情報から判断して、行動を変えれば、勝てる。
正しい情報を共有すること。