【読書】『資本主義はなぜ自壊したのか』【何ごとも「バランス」が必要】
グローバル資本主義の三つの爪痕
アメリカ主導のグローバル資本主義がなければ、BRICをはじめとする新興国の生活水準は向上しなかっただろう。
そして、彼らは労働力としてだけではなく、消費者としてもマーケット拡大にも貢献した。
これはグローバル資本主義の功績である。
グルーバル資本主義は、世界経済を活性化させる切り札であったが、
- 世界経済の不安定化
- 所得格差の拡大
- 地球環境の破壊
というデメリットももたらした。、
マルクスは「資本主義の本質は搾取にある」といったが、「ローカル」な資本主義では、資本家は一方的に搾取・収奪を行うわけにはいかない。
まず、労働者は、ほぼイコール消費者である。ゆえに、賃金上昇に応じれば、マーケットの購買力向上につながる。したがって、資本家の利益につながる。
次に、ストライキでも起こされたらたまったものではない。むしろ労働者の賃上げ交渉に応じてしまったほうがストライキを起こされずに済む。
ゆえに、「ローカル」な資本主義では、一方的な搾取・収奪は、資本家にとって得策ではない。
しかし、「グローバル」資本主義ではそのようなことに配慮する必要はない。
賃上げを要求されたら別の国に移動すればいい。ストライキを起こされたところで同様である。
そもそも、労働者と消費者はイコールではない。それぞれ別の国にいる。
同じ「資本主義」でも「ローカル」な資本主義と「グローバル」資本主義では、性格を異にするのである。
改革は必要である、問題はその中身
中谷さんは、日本の既得権益の構造、政・官・業の癒着構造を徹底的に壊し、日本経済を欧米流の「グローバル・スタンダード」に合わせることこそが、日本経済を活性化する処方箋だと信じて疑わなかったそうである。
小泉内閣の最大の課題であった郵政民営化は曲がりなりにも実現したが、最大の成果は、郵便貯金や簡易保険で集められる資金が自動的に財政投融資となって不要不急の公共事業に流れていくという仕組みにくさびが打ち込まれた点にあった。日本の既得権益の構造や、政・官・業の癒着構造を打ち壊すことは必要だった、と私でも思う。
しかし、「構造改革」は、古い日本の「良き側面」も「破壊」してしまった。
「構造改革」そのものを全面的に否定する必要はない。
しかし、「構造改革」がどこまで正しくて、どこからが間違えていたのかを検討する必要がある。
日本経済の「長期的信頼関係」
中谷さんは、日本人の「美点」として
- 自然と共生すること
- 安心・安全
- 長期的信頼関係の確立
を挙げている。
戦後、日本経済の成長は、「長期的な信頼関係を確立」することを重視していた。
具体例として、トヨタの「デザイン・イン」を挙げている。
組み立てメーカーと部品メーカーの間に、情報と価値観の共有がおこなわれた結果、長期にわたる信頼関係を構築した。それがトヨタの車の品質向上につながった。
そして、「トヨタの車は高品質である」という評判は、メーカーと消費者の信頼関係の構築につながった。
まさに「売り手によし、買い手によし、世間によし」の江戸時代の近江商人のいう「三方よし」なのだが、アメリカ流市場原理の視点からみれば、癒着や談合にしか見えないのであろう。
この「長期的な信頼関係の確立」は品質の確保ばかりでなく、ストライキ回避にも成功する。行動経済学的に言えば「取引コストの削減」に成功した。
何ごとも「バランス」が必要
「構造改革」は、日本の既得権益の構造、政・官・業の癒着構造を壊すことに成功した。
しかし、同時に、日本人が持っていた美徳にヒビを入れてしまった。
アメリカ流のグローバル資本主義の流れに乗ることで、世界経済活性化の恩恵を受けることに成功した。
しかし、同時に、世界経済の不安定化に巻き込まれ、所得格差は拡大し、地球環境の破壊にも貢献してしまった。
構造改革のどこまでが正しく、どこからが間違っていたのか、それをもう一度検討する必要がある。
同時に、グローバル資本主義のどこまでが正しく、どこからが間違っていたのかを、もう一度検討する必要がある。
どちらかの極に振れそうになった時、本当にそれが正解なのかを冷徹に分析して、間違えたと思ったら速やかに修正する。
その努力を怠れば、同じ間違いを何度も繰り返すことになる。
何ごとも「バランス」が必要なのである。