【読書】『労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱』
EU離脱投票で離脱派が勝利した瞬間、英国労働者階級の人々は、「不寛容な排外主義者」に認定されてしまった。投票結果分析で、英国人労働者階級の多くが離脱を選んだからだ。
ブレグジット(Brexit=EUからのイギリス脱退)をなぜ選んだのか?
日本はなんとか共同体に入っているわけでもないし、移民とか難民とかの問題が大きくなっているわけではないし、国民投票やるわけでもないし。
でも、もし、日本でも同じような問題が起きたらどうしよう・・・・・
この本を読んでおけば、傾向と対策を練れます。
それになにより、「イギリス人ってこんなこと考えてるのか!」ということが分かるのは興味深かったので、僕なりにいくつかピックアップしてまとめてみたいと思います。
- 避けるべきは分裂
- 国民投票を行うと、国内が分裂してしまう
- 福祉政策は雇用を生み出すこと
- ノスタルジアではなく、希望を
緊縮財政は迷惑だ
保守党政権が2010年から推進してきた強硬な緊縮財政政策のスピードが凄まじすぎる!
国立病院には閉鎖される病棟が出現、公立学校の教員が減り、福祉を切られて路頭に出るホームレスが増える。
この状態で移民が入ってきたら?
公共インフラが削減されているのに、利用者ばかり増えていくじゃないかという印象を与えてしまい、人々の不満が高まってしまったのです。
これは移民が悪いわけではまったくないのですが、移民・難民の時代と緊縮財政の時代は、致命的なほどミスマッチだったのです。
公共インフラが削減されて困っている労働者階級に対し、裕福な層は公共サービスが縮小されても何の影響も受けません。病院も学校も私立を利用しているし、そもそも福祉は関係がない。
残留派の顔だったキャメロンとオズボーンは「金持ちのための政策」を象徴する人々だったという事実。EUとそれを主導するドイツのメルケル首相が、欧州の緊縮財政を象徴する存在であるという事実。これが英国の有権者に与えた影響は強力なものだったでしょう。
日本でも「財政健全化」ということを主張する人もいますが、こういうことを考えると、そう単純な話でもないぞ。
避けるべきは分裂
第1次大戦中、イギリス政府は戦争に勝つために「国民的努力」を強いていました。しかし、戦後、その報いを労働者階級にはちっとも報いませんでした。
不穏な空気が流れ・・・1926年、ゼネラルストライキが起こります。
政府は、「ストライキに参加した労働者は非国民だ」というマスコミを使ったネガティブキャンペーンを打ち、最終的に軍隊を出動させることで鎮圧に成功します。
しかし、この鎮圧は「叩き潰した」だけであって、「解決」したわけではありません。
労働者階級の人たちは、自分たちより階級が上の人々はどんな思想を持っていようが「民主主義」の美名のもとに結束し、労働者の抵抗を叩き潰すものなのだ、と学んでしまいました。
そんな中で起きた第2次大戦。政府は「貧しい人たちは自制心にかけ、暴力的なので、戦時にはパニックして逃げまどい、国を混乱状態に陥れるのでは?」と本気で考えていたようです。
しかし、ふたを開けてみれば、労働者階級の人々は、戦力として期待され、労働力としても必要とされ、空襲が始まっても都市部に残り、淡々と戦争に必要なものを作り続けました。
一方、中流階級はというと、戦争がはじまると都市部を離れて田舎に逃げ込む始末。疎開した子供たちには、自分たちと同じ階級なら同じ待遇を与え、労働者階級なら貧相な待遇を与えるという蛮行。非国民とはどちらに対して使う言葉なの?
その結果、1945年の選挙で、戦争を勝利に導いたチャーチル率いる保守党が予想に反して大敗。労働党政権が誕生します。
戦前の社会は富めるものは自由に富み、貧しいものは自由に苦しめという無介入主義。自由と民主主義を謳うことでその不平等を覆い隠してきました。しかし、労働党は、国が積極的に経済に介入し、すべての国民に雇用と最低限の生活を保障すると約束しました。
中流階級と労働者階級の分裂。そして、労働者のことを顧みない政府。そんなことを続けていれば、たとえ戦争に勝たせた首相でも引きずりおろす。
「上と下との分裂」。それは2つの大戦中の時にも見られたことですし、ブレグジットでも見られたことです。
歴史を遡れば、現在の状況も予想できたはず。そして、回避できたはず。
国民投票を行うと、国内が分裂してしまう
他者に嫌な思いをさせない作法があったのに、わざわざぶちまけることはないだろう、と思います。たしかに、「余計なことをした首相」だ。だが、ポリティカル・コレクトネスというのが、他者に嫌な思いをさせたり、傷つけたり、苦しめたりしないように、心の底に誰もが持っている様々な方向性の差別的な気持ち(中略)を表に出さないように努力して、より洗練された方法で他者と触れ合うための作法だとすれば、EU離脱の国民投票ほどポリティカル・コレクトネスに反するものはなかった。
わざわざキャメロン元首相が(中略)パンドラの箱を開けるまでは、私の両側の友人たちは、なにも問題なくうまくいっていたからである。
キャメロンの名は「余計なことをした首相」として歴史に記録されることになるだろう、とメディアや知識人たちがこぞって批判したのはそのせいだ。
そんな名前で歴史に名を刻みたくないなぁ。
個人的に印象に残ったのは、残留派のキャットが、離脱派家庭の家の2階の窓から、白地に赤十字のイングランドの旗が下がっているのを見て、それをブルーのEUの旗に変えようとした時、アンディが絶対に嫌だと譲らなかったため、結局はイングランドの旗とEUの旗を窓から一緒に下げている光景だった。「いたずらに国内を分断させてしまうのが国民投票なのかなぁ」と思うと、日本ではぜひ国民投票やらないでくれ、とつくづく思うのです。
どちらかを下げるために、どちらかを引っ込めるという、「あれか」「それか」の二者択一を国民に迫ったのが、EU離脱投票だったという気がしたからである。
それまでは、なんとなく曖昧に両方の旗を掲げていたのに、急にどちらか一方を選べといわれたから、いたずらに国内が分断されたしまった。きっとこれからの英国に必要なのは、再び両方の旗を掲げるスタンスではないだろうか。今度はなんとなく曖昧に、ではなく、意識的に。
福祉政策は雇用を生み出すこと
緊縮財政の結果、公共サービスの低下とインフラ不足が起こります。コービンが分配だけではなく、健康的な経済成長の必要性を強調するのも、労働者階級の人々は福祉の強化によって生活を楽にしたいのではなく、自ら稼ぐことによって今よりも良い生活を手にしたいと切実に願っているからだ。
白人労働者階級は「施し」を求めているわけではない。誰かに助けてもらうのではなく、自分で自分の生活を変えたいのだ。世間的に思われているよりずっと、彼らは誇り高い人々なのである。
じゃあ、労働者階級は「施し」を求めているのか、というとそうではありません。
働くことで自分たちの生活をより良いものにしたい、と考えているのです。
ノスタルジアではなく、希望を
とはいっても、国民投票もやってしまったことですし、社会の分断も起きてしまったことです。まだEU離脱してないけど、決まったことです。
しかし、「古き良き時代」に戻ることはできません。時計の針を巻き戻すことはできないのだから。
それゆえ、政治指導者は未来への希望あるヴィジョンを示す必要があるのです。
「じゃあ、どうすればいいんだ」と僕に聞かれても未来への希望あるヴィジョンを指し示すことはできませんが、「あの頃はよかったよね~」と言っていれば済む問題でもないですし。
「どこのカセットテープの音質がいいか?」という無駄な議論で白熱していた時代には戻れないし、まあ戻れと言われても嫌だけど。
僕には政治指導者は無理だけど、個人としてできること、やりたいこと、やらなきゃならないこととか、考えさせられました。
まとめ
- 避けるべきは分裂
- 国民投票を行うと、国内が分裂してしまう
- 福祉政策は雇用を生み出すこと
- ノスタルジアではなく、希望を