【読書】『人口減少の未来学』その4【「空気」に流されない】
日本を動かしているのは、政治家でもマスコミでもブロガーでもなく、「空気」である。山本七平の指摘した当時と何も変わっていない。
『「超」入門失敗の本質』が指摘している”空気”の弊害は
(1)本来「それとこれとは話が別」という指摘を拒否する
(2)一点の正論のみで、問題全体に疑問を持たず染め抜いてしまう
これでは”イメージ”をもとにして議論を進めてしまい、”現実”とはかけ離れた回答を出してしまっても、不思議ではありません。
”イメージ”と”現実”のあいだに、乖離が生じてしまうのは―――――”現実”が変わっていくからです。
なので、”知識をアップデートしよう”と、『ファクトフルネス』は教えてくれます。
このことを、古代ローマ時代のカエサルは、
ユリウス・カエサルと言っています。
「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」引用:『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前[上] 8』 塩野七生
”空気”にひたって議論を進めてしまうと、”正しい現実”を見ていないため、間違った戦略を立ててしまうことになります。
正しい戦略を立てるためには、正しい情報を集めましょう。
ところが、「空気」が厄介なのは、
・実態がないこと
・反証があったところで「空気」にいっさい傷を与えない
ゆえに、”空気”を変えるのは、困難なことなのです。
「空気」が少しでも現実と整合するように、調整努力を行わないと、社会の不安定性が増してしまう。
そうやって空気が少しでも現実と整合するものになるように調整努力をしていないと、空気に従って集団自殺に走った過去を繰り返しかねないし、また本当に圧倒的な現実に直面した際のハレーションも大きくなる。つまりは社会の不安定性が増してしまう。自称「保守」が「空気を保守」し続けた結果、社会が保守できなくなる(ひどい場合崩壊する)というのは、歴史上に眺めても、あるいは現在の世界各地を見ても、たいへん普遍的にみられる現象なのだ。なので、人口減少社会の”空気”と”現実”を整合するための、”事実”を見てみましょう。
少子高齢化は地方よりも東京のほうが深刻
【誤】高齢化は地方のほうが深刻だ。だがこうして東京で起きている急速な人口増加も、実はもっぱら「高齢者の増加」なのである。
【正】後期高齢者は東京に一極集中している。
高度経済成長期に、東京を含む都会に出てきた団塊の世代が、65歳を迎えているからである。
そして、団塊ジュニアの世代がこれから65歳を迎えることになるので、東京の後期高齢者は増え続ける。
この傾向は、あと十数年は続く。
一方、都会に若者を送り出してしまった地方では、高齢者のなり手がいないので、絶対数は減り続けることになる。
ちなみに日本の三大高齢化先進県といえば秋田県、島根県、高知県だが、この3県を合わせても65歳以上人口の増加は2万人で、全国での増加の1%に過ぎない。「高齢化は地方のほうが深刻だ」
という”イメージ”と”現実”は違うのです。
筆者(藻谷浩介さん)はよく、傾きながら沈みゆく船の船首と船尾にたとえるのだが、船尾が先に沈んでいくのを見て、船首に集まった人たちが「やーい、やーい、あっちが先に沈んだ」と喜んでいるような光景を、「人口増の東京だけは大丈夫」と勘違いしている人に会うたびに想起してしまう。実際には東京ももう沈み始めているというのに。日本全国で少子高齢化が進んでいるのに、
「東京だけは大丈夫」
と、どうして考えてしまうのか?
”空気”は思い違いを起こしています。
これを一言でいえば、過去半世紀で進んだ自らの著しい少子化を、地方から人口を奪ってくることではもはや補えなくなっているということだ。藻谷浩介さんは”プロ野球”で比喩表現しているのが、面白いので引用します。
プロ野球に例えれば、自前での選手育成能力が低い分を、他球団からのFAで補ってきたものの、結局選手層が薄くなってしまっている、在京某球団のようなことが、東京都全体でも起きているのである。
東京都以外では沖縄県でのみ0・2万人子どもが増えたが、こちらは合計特殊出生率が2に近く、多くの子どもが生まれ続けていることに起因する。同じ増加でも、転入に依存する東京と、自前の出生で増える沖縄とでは、要因はまったく異なる。まるで、FAに依存する在京球団と、自前の育成にこだわる地方球団の対比のようだ。おっしゃるように、
こうした事実は、「高齢化は、過疎地ほど深刻だ」という世の空気に真っ向から反している。
日本だけがダメなわけではない
こういうことを書いていると、
「日本だけがダメだ」
という悲観論が出てきますが、実はそうではなかったのです。
ちなみに2020年以降の世界では、日本では世界に先駆けて高齢者の絶対数の増加が止まるのに対し(その中でも首都圏でだけは増加が続くが、地方では軒並み減少が始まる)、欧米ではなお増加が続き、中国や韓国、台湾では欧米のペースを大きく上回る急増が続く。どこの国でも問題はあるのです。
なので、安易な悲観論に染まらないで、打てる手を打ち続けるしかないのです。
また、
世の中には「移民を入れれば子どもが増えるだろう」という空気があるが、事実としては、大量の移民を受け入れている米国でも、シンガポールでも、もう子どもの絶対数が減り始めている。東京が少子化しているのと理屈は同じなのだが、なぜか「移民はどんなに困難な条件の下でも子どもを産んで増えていく」という空気のような思い込みがあるので、現実を直視してそのような謬見を改めるよう、注意しなくてはならない。日本人であろうが、移民であろうが、条件は一緒です。
日本だけが駄目なように言われていたのは、過去の話になるのだ。「空気」が事実と連動して改まるかは別問題だが。”現実”は変わっています。
”空気”を変えるのが困難なことは上述しましたが、”イメージ”と”現実”の整合努力を続けることは大切です。
同じ日本でも差がある
藻谷さんは「次世代再生力」というものを計算し、都道府県別のグラフをつくりました。
「次世代再生力」をは、25~39歳の数を3で割って、0~4歳の数と比較した数値である。
24歳までを含めないのは、大学に行っている人を含めてしまわないようにするため。
合計特殊出生率に比べたメリットは、年ごとのムラを排除できるということです。
このグラフを見ると、明らかに西高東低です。
また、全国平均の68%に対して、東京都は55%、東京特別区は52%です。東京に出てきてしまうと、次世代を残せなくなっているのです。
同じ日本人が営む現代日本社会の中に、これだけ大きな差が生じているということは、何を示しているのか。日本人自体のDNAに何か変化が起きているというような話ではもちろんなく、問題は暮らし方、生活環境の変化にあるということだ。生活環境さえ是正すれば、子どもは再び増える。なぜならDNAはそのようにできているからだ。この「DNA本来の潜在力」をまったく無視しているところに、日本の人口減少を徒に悲観する向きの勘違いがある。同じ日本人が営む現代社会でも、西日本と、東京を含む東日本で大きな差がでているのは、DNAの変化ではなく、暮らし方・生活環境が一因だと考えられます。
したがって、生活環境さえ是正できれば、子どもは再び増加することが考えれます。
”空気”や”イメージ”で考えて、少子高齢化が永遠に続くと考えるのは間違いです(しばらくは続くが)。
しかし、暮らし方・生活環境を是正すれば、どこかで止まります。
”空気”や”イメージ”に染まって悲観している時間があるのなら、暮らし方・生活環境をよりよくする方法を考えましょう。