【読書】『人口減少の未来学』その6【緊縮財政は逆効果】
欧米の成功例を持ち出して、いまや経済はグローバルに進行しており、政治や社会というものはそれに合わせて変化するので、日本だけが特別、とか、英国だけが違う、とかいうことはないはずだ。だいたい同じようなことが起きているのではないか、または、何か考え方のヒントになることがあるのではないかと思っている。
「じゃあ日本でも」
となるのなら、欧米の失敗例を持ち出して、
「日本はやらないようにしよう」
と比較して考えるのは有益なことである。
「家計」と「国家財政」は別モノ
イギリスでは、2010年に保守党が政権を握り、極端な緊縮財政に着手し、財政均衡を目指した。「このままでは英国はギリシャのように債務破綻する」と宣言し、平均寿命の伸びを止めるほどの勢いで倹約に精を出し、財政均衡への「痛みの道」を突き進んできたはずの英国は、実は全然借金を返せていないらしいのだ。
その結果、財政赤字は7000億ポンドも逆に増えたばかりか、経済成長率もG7諸国中最低という結果になっている。
経済理論をざっくりまとめれば、
GDP = 個人支出 + 企業投資 + 政府支出 + 貿易収支
という数式で表される。
政府支出が減れば、GDPが落ちる。
そして、個人支出はGDPに正相関しているので、GDPはますます落ちる。
国家経済にとっては負のスパイラルである。
そして、政府の収入は税金であり、景気が悪ければ、税収は落ちる。
単なる緊縮財政では景気が悪化するだけである。税率やタックスヘイブンの問題はあるが、それは緊縮財政とは関係がない。
むしろ、タックスヘイブンを防いでしまえば税収が増えるのだから、そういう企業を目の敵にしなければならぬ―――――それはともかく―――――
経済が苦しいときには金融緩和と財政支出を行えば雇用が創出されて需要が拡大する、というのが経済学的には基本だが、「使うより貯めているほうが経済的によい状態」という風に、一国の財政に関しても家計感覚で考える人が多いので、政治家のほうでも、たとえそれは正しくないと知っていても支持を集めるためにそういうことを言い出す傾向にあるという。これと対照的なのが、ポルトガルである。
こうして「道徳的にはなんとなく良いことに思える借金返済のための政治」が、実は新自由主義の推進に加担していることになり、「未来の世代のために借金を残さない」どころか逆に増やしているという皮肉な結果になっているのだ。
もっとも激しい人口減少を経験していたのはポルトガルで、2060年までには人口が現在の1030万人から630万人にまで減少するという予測さえあったが、ポルトガル政府は2015年に反緊縮政策に舵を切り、現在は経済好調で財政赤字も減らしている。2060年の人口予測が当たるとは思えないが、経済を好調にしてしまえば、財政再建できるのである。
これは「経済成長をしていない国に借金は返せない」というトマ・ピケティの言葉とも呼応する。家計で「使ったら給料が増える」ことはない。家計の感覚で国家財政を考えると失敗する。
国家経済の場合は、使うと増える。問題は、
「どこに使うか?」
である。
それに失敗すれば、国家経済は衰退する。連動して政治政策も失敗する。
使い方を正せば、景気は回復する。国家財政も改善できる。そして、政治も上手くいく。
緊縮財政の影響を受けない層と、緊縮財政の影響をモロに被っている層。英国に再び階級の概念が戻ってきた。前者はあまり生活に変化は感じていないが、後者は不満と怒りをため込んでいるからだ。経済学の理論。ポルトガルの例。トマ・ピケディの言葉。なによりも、イギリス政府の実績。
その怒りが爆発したのが2016年のEU離脱投票だった。なにしろ、残留派のリーダーが「緊縮コンビ」「民衆の敵」と呼ばれたキャメロン元首相とオズボーン元財務大臣だったのである。
イギリス国民の怒りに同感する。そして、日本も
「安直な財政再建のために緊縮財政」
などと言ってはならないのである。
無駄な支出を削減し、有効な支出を増やせばいい。ようするに「使い方」である。
「世界恐慌」と「リーマンショック」の類似点
世界は1930年代の様相を呈してきたと今さかんに言われている。ナチスを生み出した欧州では、特にその意識と恐怖感が強い。なんとなれば、極右政党が欧州各地で台頭してきている現在の政治状況は、当時を髣髴とさせるものがあるからだ。
なぜか今でも多くの人々がナチスを生み出したものはハイパーインフレだったと信じているが、実はワイマール政権の紙幣の刷り過ぎによるハイパーインフレは1920年代半ばには落ち着いていた。ナチスを生んだものはデフレと緊縮財政だったのである。基本的欲求が満たされていれば、人々はそうそう過激化しない。そして、明るい未来を示せれば、そうそう戦争にはならない。
今こそ適切な経済成長を果たし、人々に明るい未来はあることを示さなければ本当に1930年代の再現になってしまう、という切実な危機感が彼らにはある。
欧州は先の大戦の反省を活かしている。
1930年代、米国とドイツの明暗を分けたのは経済政策だったと彼らは主張する。経済政策のざっくり説明は上述したので、割愛させていただきます。
「デフレ」と「緊縮財政」を避け、適切な経済成長を果たすことである。
爆発的な経済成長はないだろうが、2%程度の成長は保てる。 そして、世の中が変わっている以上、今までの戦略と、これからの戦略も変わる。
これからの戦略を考えることだ。
社会を楽しくする方法を考えよう
この章を読んでいて、一番心に刺さった言葉はこれである。「なんか、日本社会はもう萎むしかないから、これからは内面を豊かにして、小さく生きて行きましょう、みたいなことがさかんに言われてますよね。けど、なんで『ビッグになりたい』とか思うのがあかんのかな。俺ら若いもんは、もうそういうこと考えたらあかんのでしょうか。そういうこと思う奴は非道なんですかね?」
上の世代は、この問いに真摯に答える義務がある。
ぼくの答えは、
「ビックになっちまえ」
である。ただし、
「今までと違う方法で」
「大企業に入って出世する」という『島耕作』のような方法をオススメしないのは、リスクがあるからだ。
カセットテープ、ビデオテープ、フィルムカメラが必要なくなってしまったように、産業そのものが衰亡してしまうかもしれない。かつての大企業もいつ潰れるか分からない。
ぼくのYouTubeデビューは、小島よしおさんだったのだが、あの時に、まさかYouTubeでお金が稼げる時代がくる、とは思わなかった。
カセットテープやビデオテープという記録メディアは必要なくなったが、中身のコンテンツは必要だ。
フィルムカメラも、フィルムはいらない。しかし、カメラのレンズは必要だし、ウデも必要だ。
「星空撮影」なんて、フィルムカメラの時代に失敗したらガッカリだし、現像代がいくらになるかと思うとチャレンジしたくもない。
その点、デジタルカメラは何度でも失敗できるから、気軽にチャレンジできる。それでイベントも開催できる。
世の中は変わる。いや、変わり続ける。だから、今までの成功をなぞるのではなく、新しい道を探す方が成功率は高い。
予約サイトは、これまでわたしがホテルを利用した国や、過去にチェックした地名を分析し、「お客様が関心を持ちそうな場所」をいくつか選んでホテル価格を知らせるプロモーション・メールを送ってくる。で、最近送られてきたメールでは、リスト化されていた都市で一番安かったのが東京だった。「日本の物価は高い」
という思い込みも、間違えている。
もう、世界の方が物価が高くなっている。新興国だって物価が高くなっている。
「自分がサービスを売っている間は英国にいたほうがいいが、サービスやケアを受ける側になったら日本のほうがいい。料金が安いのに、質が高い」「日本に資源はない」
そんなに質の高いサービスなら世界水準でそれに見合った価格を設定したほうがいいし、労働を提供している人も労力に見合った報酬を受け取ったほうがいいと思うが、なぜか日本は、あまりにも長い間そうなっていない。
という思い込みも、間違えている。
「高品質のサービス」
という、立派な資源がある。
それが、海外と比べて高品質なら、そこで勝負すれば、勝算は高い。
そう考えると、戦略も間違えている。
本章の主論から言えば、緊縮財政あるいは財政政策。
『人口減少社会の未来学』でいえば、
「人口が増えなければならない」
という前提で考えていること。
縮小社会が楽しいなどと言ってはいけないのだ。理論的に2%の成長はできる。感覚的にもできそうな数字。
それを達成するのは『人口減少社会の未来学』を前提とした戦略である。
方法はある。うまくいったら楽しい。