【読書】『「超」入門 失敗の本質』

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 太平洋戦争において、日本がアメリカに負けたのは、国力の差だ―――――
 本当にそうだろうか。
 歴史上、明らかな小国が大国に勝利した例はある。
 アレキサンダー大王の東征しかり、モンゴルの世界帝国建設しかり。
 「戦争をしよう」と言っているわけではない。ビジネスでも同様のことだからだ。
 Amazonしかり、Googleしかり。
 アメリカだけではない。日本の大企業もはじめはベンチャー企業。
 それでも成功している企業があるのは―――――戦略の差だ。
 「戦略論」を考えるにあたって、『「超」入門 失敗の本質』は良書なのです。

ポイント・目標達成につながらない勝利はいらない。
・戦略とは、「正しい目標を設定すること」。
・正確な情報を入手せよ。
・ゲームのルールを変える:方法を変えてみよう。
・イノベーションを有効活用しよう。

「目標達成につながらない勝利」はいらない

 日本軍の迷走から見えることの一つ目は「目標達成につながらない勝利」の存在である。
 南洋諸島において、実際に日本軍が駐留していた25の島のうち、米軍が上陸・占拠したのはたったの8島。残り17島は戦力のみを無効化して放置された。

 国力の差があるのにもかかわらず、余計な戦闘を行っていた。
 そりゃあ負けるわ。
 このことから言えるのは、
【米軍】目標達成につながる勝利の存在が多かった
【日本軍】目標達成につながる勝利が少なかった
 すなわち、
 「戦略」とは、「目標達成につながる勝利」と「目標達成につながらない勝利」を選別し、「目標達成につながる勝利」を選ぶことである。
である。
 「目標達成につながらない勝利」はいらないのだ。

戦略とは、正しい指標を設定すること

 石原莞爾はドイツ・ベルリンに留学し、第一次世界大戦は「持久総力戦」であり、ドイツはそのタイプの戦争に負けた、という結論を得た。

 「持久総力戦」とは、国家間の戦争は補給が続く限り行われ、国家の生産力、体力を総動員する総力戦で勝敗が決まる、というものである。
 この結論から石原莞爾は、国力がアメリカに追いついてから戦争をすべし、と考えた。
 一方、日本軍は「決戦戦争」に固持した。
 「決戦戦争」とは、一つの大戦闘の勝敗が、戦争の勝敗を決めるとする思想だ。
 「なぜ、日本軍が目標達成につながらない勝利」を追求したかは、「決戦戦争に固持したから」といえる。
 「持久総力戦」を選ぶか、「決戦戦争」を選ぶか、その議論はここでは追求しません。
 ここで強調したいのは、間違った指標を追い続けると、無駄な戦闘を行い、そして敗れる、のです。
 戦略とは、正しい目標を設定すること、なのです。

じゃあ、どうすればいいのか?

 批判するだけならだれでもできる。
 だから、代案を用意しよう。
 「こうやったら失敗する」というのが分かったら、「こうすればいいんじゃないか?」と考えよう。
 代案が失敗することもあるけれど、何もしないよりはるかに建設的だ。
 批判だけ繰り返していても、何も生まれないのだから。
 『「超」入門 失敗の本質』には、そのヒントが書いてあります。

正確な情報を入手せよ

 『キリンビール高知支店の奇跡』では、「キリン 対 アサヒ」でどちらがお客様の支持を得ているかを調べるために「花見や祭りの次の日にごみ箱をあさった」という体験談が書かれています。
 正確な情報を入手するための執念。
 これはすなわち「勝利への執念」だ。この姿勢を見習いましょう。
 目標達成することも、その目標そのものも、正確な情報がなければいけないのです。


 ちなみに、正確な情報を入手するメリットとして、こんなことを上げています。
トップが最前線を自分の目と耳が確認する5つのメリット。

  1. 情報が階層にフィルタリングされて、歪んだ形でしか伝わってこないことを避ける。
  2. 決定権者が最前線の問題を直接知ることで、改善実施のスピードが段違いに速くなる。
  3. 誤った情報を基に、不適切な対策を続けている状態を見破る機会となる。
  4. 問題意識が一番鋭い人物が現場に足を運ぶことで、新たなチャンスを発見する。
  5. 現場のスタッフとの意思疎通と最前線の優れたアイデアをトップが直接検討できる。

 トップかどうかはともかく、これだけのメリットがあるのです。

ゲームのルールを変える:方法を変えてみよう

 太平洋戦争において、日本軍の戦闘機と日本軍のパイロットを上回ることが、アメリカ軍にはできなかったのです。
 1対1で戦ったら、アメリカ軍は負ける―――――だったら、2対1で戦おう。
 これは現代のビジネスでもあったことだ。
 「VHS 対 β」のビデオ戦争。性能に差はなかったのに―――――僕としては、「コンパクトなβのほうが収納に便利なのでは?」と思っていたのだが―――――VHSが勝利した。
 理由は、「ビデオソフトメーカーがVHSを採用したから」
 そこから学習したSONYは、ソフトメーカーに営業攻勢を行うことで、「Blu-ray 対 HD DVD」の戦争に勝ったのです。
 「こっちの土俵で戦ったら負けるから、あっちの土俵で戦おう」
 アメリカ人も日本人もできること。僕たちも考えてみましょう。

イノベーションを有効活用しよう

 新兵器「レーダー」を日本軍は採用せず、アメリカ軍は採用した―――――なにも、技術だけがイノベーションではない。考え方にもイノベーションがある。
 「1対1で戦ったら負けるから、2対1で戦おう」という発想もイノベーション。
 「性能で戦ったらどうなるか分からないけど、既成事実を作っちゃおう」という営業もイノベーション。
 「創造的破壊」―――――従来の指標とは大きく異なる「劇的な変化」―――――には、人・技術・運用方法の3種類があります。
 人でも、技術でも、考え方でも、有効活用できるものなら取り入れよう。
 では、どうやって、イノベーションを生み出すか? 

(ステップ1)戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する
(ステップ2)敵が使いこなしている指標を「無効化」する
(ステップ3)支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う
 この3つを頭に入れておこう。

まとめ

・目標達成につながらない勝利はいらない。
・戦略とは、「正しい目標を設定すること」。
・正確な情報を入手せよ。
・ゲームのルールを変える:方法を変えてみよう。
・イノベーションを有効活用しよう。